侍ジャパンを倒し生活激変 NPB指名漏れも…手にした9億円「歩く時はマスク」

プレミア12台湾代表で主将を務めた陳傑憲
来年3月に開幕するワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で野球日本代表「侍ジャパン」が初戦で対戦するのは、昨年のプレミア12で初優勝を果たしたチャイニーズ・タイペイ代表だ。主将として優勝へ導いたのは、台湾プロ野球(CPBL)の統一ライオンズに所属する陳傑憲(チェン・ジェシェン)外野手。大会後は周囲の認知度が高まり、生活にも思わぬ変化が訪れた。
台湾のスターとなった31歳の原点は日本にある。「兄が岡山共生高に留学して、野球をやっていました。その兄が父に『この環境は傑憲にも合っていると思う』と勧めてくれて、それで自分も日本に留学することを決めました」。家族の後押しを受け、自身も岡山共生高に入学。高校3年時にはNPB入りを目指しプロ志望届を提出したが、指名はなかった。
「プロ野球選手は、誰もがレベルの高い舞台でプレーしたいと思っているはずです。NPBでプレーすることは、みんなの憧れです。自分はそこまで能力がないと思っていましたが、当時のコーチに勧められたこともあり、プロ志望届を提出しました」
高校卒業後は帰国し、台湾電力に入社。仕事と野球を両立する日々を送った。プロの道を追い求めることはなく、社会人としての生活を選んだ。
「当時の台湾プロ野球は、八百長事件などもあり、まだ環境が整っていませんでした。台湾電力では会社員として仕事もあるので、生活も安定していました。プロの世界は厳しいですし、自分には通用する実力がないと思っていました。だからこそ、安定した道を選びました」
だが、熟考の末2016年にCPBLのドラフトに参加。統一ライオンズから2位指名を受け、プロ野球人生をスタートさせた。
プレミア12世界一で一変した世界…必須になったマスク
「同じ歳の選手たちが大学を卒業してプロを目指していたということもありますが、家族にお金が足りなかったという現実的な理由もあります。自分の力でお金を稼ぎたいと思いました」
プロの舞台に立つと、その実力を存分に発揮し2020年には首位打者、最多安打、ベストナインを獲得。2023年のWBC、2024年のプレミア12ではチャイニーズ・タイペイ代表としてプレー。プレミア12では主将としてチームを主要国際大会では初となる世界一に導き、自身も大会通算打率.625でMVPを獲得した。
「プレミア12で優勝してから広告の仕事も増え、たくさんの人に自分の名前を知ってもらえるようになりました。ありがたいことなのですが、外を歩くときはマスクをしなければならず、レストランでは個室を取らなくてはいけなくなりました。夜市が好きで、昔はよく夜市に行っていたんです。でも今は行けなくなってしまいました(笑)」
母国を世界一に導く活躍を見せ、今年3月には統一ライオンズと10年総額2億台湾元(約9億円)という大型契約延長に合意した。「お金を稼ぎたい」との思いで踏み出したプロの世界。その夢を、努力と結果で現実に変えてみせた。そして来年3月、再び世界が注目する舞台で、新たな一歩を踏み出す。
(篠崎有理枝 / Yurie Shinozaki)