イチロー氏、52歳で“新境地” 8日前に肉離れもアマ指導に奮闘…自らの体で「実験」する意味

「第1回 イチロー DREAM FIELD DAY」で錦織圭、内田篤人氏とともにコーチ役
「これからも肉離れします」――突如飛び出した発言の真意とは。マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクターのイチロー氏が29日、埼玉・和光市の和光スポーツアイランドで行われたスポーツイベント「第1回 イチロー DREAM FIELD DAY(ドリームフィールドデイ)」で、テニスの錦織圭、サッカーの内田篤人氏とともにコーチ役を務めた。
小学4年から中学3年までの少年少女161人が参加し、野球・サッカー・テニスの3競技を体験。野球部門のコーチ役を務めた52歳のイチロー氏は、今月24、25日に福岡・九州国際大付高で野球部の指導を行った際、指導初日の3日前(21日)に右太ももを肉離れしたことを明かし、走塁の実技披露を回避したばかりだ。
ところが、周囲の心配をよそにイチロー氏は、湿布もテーピングもせず、短パン姿でキャッチボール、ティー打撃などの指導に奮闘。指導の合間には、塁間をジョギングする姿もあった。それどころか両膝を曲げながら、ぴょんぴょんとジャンプするシーンも。とても8日前に太ももを肉離れした52歳には見えない。
さらに、ほとんど経験のないテニスとサッカーにも挑戦。テニスラケットを手に錦織のサーブに立ち向かい、内田氏に指導を受けながらゴールを狙ってサッカーボールを蹴った。悪戦苦闘の末、「改めて、僕は球技が苦手なのだと思いました」と自虐的なジョークを放っていた。しつこいようだが、太ももを肉離れしたばかりの52歳の動きではなかった。
そんなイチロー氏はイベントの最後、あいさつに立つと、参加者たちに向かって「みんなが上手だったから、僕も力が入っちゃって、最後はまた肉離れしそうになっちゃいました」と告白した。「今日は希望とか明るさとか、ポジティブな空気に包まれていたと思います」と満足そうに振り返り、「子どもたちには怪我なく、元気にやってほしけれど、僕は『こうなると怪我をするんだよ』ということを示していきたいと思うので、肉離れ、これからもやっていこうと思っています!」と高らかに宣言してしまったのだった。
8日前に肉離れ「治癒力が上がっている 実験できるのは面白い」
8日前の肉離れの影響を感じさせなかったイチロー氏は、「自分でもどうしてだかわからないのですが、(52歳にして)治癒力が上がっていると思います。現役時代は怪我をするところまで自分を追い込むことはありませんでしたが、面白いよね、今は実験できるから」と語る。ひょっとすると本気で、自分の肉体を“実験台”にして、どこまでやれば怪我をするのかを追究するつもりなのかもしれない。
周知の通り、イチロー氏のアマチュア球界への貢献は今回のイベントに限ったことではない。高校野球部への指導は、今年の九州国際大付高で6年連続13校目に上る。さらに、イチロー氏が現役引退後に結成したアマチュア野球チーム「KOBE CHIBEN」は2021年から毎年、高校野球女子選抜チームと試合を行っている。今年も8月31日にバンテリンドームで開催され、イチロー氏は先発投手として9回111球、1安打14奪三振で完封勝利をマークしている。
この日のイベントに参加した中学3年の野球少女、大竹翠(すい)さんは女子野球部のある高校への進学を志望しており、「高校野球女子選抜チームに入って、イチローさんと対戦したいです」と夢を描いている。イチロー氏はこうして、野球女子にも1つの具体的な目標を与えているのだ。
ティー打撃をイチロー氏から「いいね!」とほめられ感激の面持ちの大竹さんは、「実際のイチローさんは、テレビで見るより大柄に見えました。『錦織選手や内田選手のようなスターは、大きく見える』とおっしゃっていましたが、それはイチローさん自身のことでもあると思いました」と述懐した。
もはやイチロー氏の偉大さは、選手としてだけではない。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)