イチロー氏「圧倒的に失敗してきました」 “7割”が生むプロとアマの決定的な違い

スポーツイベントで錦織圭、内田篤人氏とともにコーチ役を務めた
日米通算4367安打を放ち、アジア選手として初の米野球殿堂入りを果たしたイチロー氏(マリナーズ会長付特別補佐兼インストラクター)が29日、埼玉県内で体験型スポーツイベント「第1回 イチロー DREAM FIELD DAY」を開催。テニスの錦織圭、サッカーの内田篤人氏とともにコーチ役を務めた。小学4年から中学3年までの参加者161人にイチロー氏が伝えた、野球の“鉄則中の鉄則”とは──。
小中学生を前にバットを持ち、ティースタンドにボールを置いて、実際にティー打撃(置きティー)を披露したイチロー氏。「実は、バッティングは投げることによく似ています」と語りかけた。打撃にも投球にも共通する“鉄則”があるというのだ。
それは「相手に自分の胸を見せないこと」。打撃では、早い段階で投手方向に自分の胸を見せてしまうと、肩が開き、打球に力が伝わらない。イチロー氏は「我慢して我慢して、下半身を使って打つこと。それに伴って腕が自然に出てきて、バットが走る感覚」を説いた。
「初めて野球をやる子たちはまず、バットにボールが当たる感触、バットでボールを打つことは楽しい、気持ちいいという感触を味わってみてください」とした上で、「経験者の子たちは、どうやったら強い打球を飛ばせるかを考えながらやってほしい」と訴え、「そのコツは、相手に胸を見せないこと」ともう1度繰り返すのだった。
「今日は止まっている球を打っているけれど、バッティングセンターに行けば、動いている球を打つことができます。動いている球を飛ばせたら、もっと気持ちいい。それだけでストレス発散になります」と参加者たちに勧めるイチロー氏。「場所の問題で、ボールを投げることはなかなかできない時代ですが、打つことはバッティングセンターに行けばできます。1度行ってみてくだい」と強調したのは、小学生の頃からほぼ毎日、地元のバッティングセンターに通ったイチロー氏らしいアドバイスだった。
「僕が本来持っている“なまけ癖”」のお陰で野球を続けられた?
冒頭に「打つことと投げることは似ている」と表現した通り、イチロー氏はキャッチボールを教える際にも、ボールの投げ方の基本として「相手に胸を見せないこと。我慢して我慢して、最後に腕を走らせる」と説明。ここではさらに、「(テークバックの際に)ボールを握った手の親指を下へ向けること。親指が上を向いていると、強い球が行かないから」とワンポイント付け加えた。
理路整然と野球の基本を説明したイチロー氏だが、子どもの頃から野球を続けることができた要因を聞かれると、「僕が本来持っている“なまけ癖”がそれにつながったと思っています」と意外な答えを返した。
「僕は苦しいこと、厳しいことに耐性がなくて、続けられない」と吐露。「好きなことを見つけると、頑張れるんです。途中でどうしたって苦しいことはありますが、なるべく負荷のない……負荷がないというのは、トレーニングを軽くするとかではなくて、ストレスなく持続できることを見つけてほしいと思います」と強調するのだった。
とはいえ、レベルが高くなればなるほど、楽しい、気持ちいいだけでは済まない局面が増えていく。イチロー氏は「野球は失敗するスポーツです。特にバッティングは、うまくいって3割。僕も圧倒的に失敗してきました」とした上で、「プロのアマチュアの違いは、(失敗した)7割に目が行くのがプロで、これはずっと苦しい。(成功の)3割に目が行くのがアマチュアです。この段階で、成功体験をしっかり持っておくことは大事だと思います」と語った。現役時代に年間200安打を自分に課し、毎年吐き気を催すような重圧と戦いながら、メジャー1年目の2001年から10年連続200安打をマークしたイチロー氏の言葉だけに、重みがある。
「みなさんの可能性は無限大です。頑張れば頑張るほど上手くなります。その上で、好きでい続けられれば、もっともっとレベルが上がっていきます。このイベントをきっかけに、野球でもサッカーでもテニスでも、他の競技でも勉強でも、何か好きなものを見つけて頑張っていってほしいと思います」。小中学生にそう呼びかけたイチロー氏の表情は、“勝負師”の頃とは違い、実に穏やかだった。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)