4番出場予定が…突然告げられた構想外 引退試合は固辞、モヤモヤで実感した「未熟」

楠本泰史氏は2024年にDeNAから構想外となり引退試合の打診も受けた
今季限りで現役を引退した楠本泰史氏は、2024年限りでDeNAを戦力外となり、阪神に移籍した。DeNA側からは、仮に引退する場合は引退試合の打診もあったが、現役続行を目指して固辞。幼少期からファンだった阪神から声がかかり、憧れだったタテジマのユニホームでプレーした。
2017年ドラフト8位でDeNAに入団し、2022年と2023年にはいずれも94試合に出場した。しかし2024年はわずか18試合にとどまり、8月19日にこの年2度目の抹消となった。再昇格を目指してファームで汗を流していた9月中旬、朝のウオーミングアップ前に球団側と話をする時間が設けられた。
そこで来季構想から外れていること、仮に野球を辞めるなら引退試合を行うことを告げられた。「何の話だろうと思ったらそういうことで、『えっ……』ってなりました。でもベイスターズでの自分の立ち位置というか、もうポジションがないこともわかっていたので、戦力外通告を受けても仕方ないのかなというのは正直思いました」。しかしファームでは試合に出続けていたこともあり「体も元気だし、もう一度勝負したい。どこかの球団さんで野球ができたら」とすぐに現役続行を決めた。
実は構想外を告げられた日は、ファームの試合に4番で出場予定だった。球団側からは「今日はもう帰っていいから、自分の考えの整理がついたらグラウンドに戻ってきてくれ」と言われたため、午前9時頃に帰路に就いた。3日ほど経って、楠本は試合に復帰することになる。モヤモヤを吹き飛ばしたのは、同時期に構想外を通告された大田泰示氏(同年限りで引退を決断)の言葉だった。

「投げやりになるような態度は見せず、最後までやり切ろうや」
「ファームも優勝がかかっているときだったし、泰示さんに『もしかしたら、この期間をどこかの誰かが見ていてくれるかも知れない。絶対に投げやりになるような態度は見せず、最後まで後輩たちにもわからないようにやり切ろうや』って言ってもらって、その通りだなと。泰示さんの言葉で決心がついてグラウンドに戻ることができたし、そういう考えにすぐになれなかった自分は未熟だなとも思いました」
DeNAで最後までやり抜くと、阪神が獲得意思を示してくれた。阪神は2023年に18年ぶりのリーグ優勝を果たし、2024年も2位。6年連続Aクラスと戦力は整っていただけに「タイガースだけは想像していなかったので『本当ですか?』って」と、驚きつつも飛び上がるほどにうれしかった。その喜びは、単に拾ってもらったからというだけではない。
大阪で生まれた楠本は、幼少期は父親と甲子園球場に通い、外野席でユニホームを着てメガホンを叩き声を枯らした。2003年9月15日の優勝決定日も現地にいた“ガチ勢”だった。「野球を好きになったキッカケの球団。ご縁があるんだなと思いました。ベイスターズで戦力外通告を受けて、野球を辞めるかもしれない覚悟があった中で、あるはずのなかったプロ野球8年目をやらせていただく感謝の気持ちしかありませんでした」と生まれ故郷での“最後の戦い”に感慨深げだった。
(町田利衣 / Rie Machida)