日本S真っ只中…阪神戦力外に「整理できない」 キャンプ荷造り一転、突きつけられた現実

楠本泰史は今季限りで阪神を戦力外となり現役引退を決断
DeNAと阪神でプレーした楠本泰史氏は、今季限りで8年間の現役生活に別れを告げた。2024年限りでDeNAを戦力外となり阪神に移籍したが、新天地ではわずか16試合で打率.133どまり。日本シリーズ真っ只中だった第2次通告期間に戦力外となり「頭の整理ができなかった」と話す。当初は現役続行の道を模索したがオファーがなく、引退を決断。来年1月からは阪神のプロスカウトとして新たなスタートを切る。
クライマックスシリーズのメンバー外だった楠本だが、日本シリーズを見据えて宮崎県内で行われていたフェニックス・リーグで汗を流していた。打撃の状態は良好で、「この感覚でチームに貢献したいなと、体も気持ちも昂った状態で、日本シリーズ前に宮崎から帰ってきました」。しかし40人枠に名前はなく、肩を落とした矢先だった。10月29日、秋季キャンプに向けて家で荷造りをしていると「明日、球団事務所に来てくれ」という電話を受けた。
「スーツで来てくれと言われた時点で心の準備はしましたし、成績が残せなかったので覚悟はしていました。でもキャンプの準備をしていたし、通告を受けて『え、本当に!?』というのが正直なところ。急展開すぎて自分でも整理できないというか、受け入れるのが大変でした。急すぎてトライアウトを受ける気持ちにもなれず……」
2年連続の戦力外に、小さな可能性を信じてオファーを待った。しかしNPB球団からの声は掛からなかった。「昨年戦力外になった時点から12球団のみと決めていました。ほかがレベルが低いとは思わないし、また違った野球のよさがあると思います。でも僕は毎日朝起きてその日の試合のために準備して取り組んできた。プロで戦うためだけに人生を懸けていたので、12球団から必要じゃないという判断をされたらユニホームを脱ぐのが本望だと思っていたんです」。

プロスカウト就任「生半可な気持ちではできない仕事」
今季1軍では苦しんだが、ファームでは65試合で打率.304という成績を残している。それでも楠本は「戦力外で拾ってもらって、(1軍で)チャンスがあるだけでもありがたい。春先のチャンスで、数打席でしたけどそこで結果を残せなかったので」と正面から受け止める。いつも手を抜くことなく、“練習の虫”とも呼ばれた。だから「野球を辞めるとなったときに、『もっとああやっておけばよかった』ということがなかった。本気になって取り組んできたんだというのは再認識できました」と微笑んだ。
そんな姿勢を見ていたからなのだろう。阪神からは戦力外を通告された際に、仮に引退する場合はプロスカウトに就くことを打診された。在籍はわずか1年間ながらポストを用意されたことに「まさかだったので、すごくありがたいです。『ファームにいても腐らずに若手の見本になってくれてありがとう』というのは多くの方に言っていただいて、ひたむきにやっていてよかったと思う瞬間でした」と誇らしげだった。
プロスカウトは、移籍や現役ドラフトなどのために他球団の選手をチェックするのが仕事だ。「自分は2度戦力外を経験して、そのうちの1度は移籍ができました。自分と同じように、もう1年勝負できるんだという喜びを得る選手を一人でも増やしたい。ずっとレギュラーでやっていた人たちだけじゃなく、もどかしい気持ちや悔しい気持ちを持ってファームで汗を流している人の気持ちもわかるので。人を評価するのは簡単なことではないし、選手の生活も懸かっていて生半可な気持ちではできない仕事。自分も一から野球の勉強だなと思っています」。30歳から始まる第二の野球人生。楠本にしかできない役割が、きっとあるはずだ。
(町田利衣 / Rie Machida)