入部希望者ゼロに危機感 都城東4人のマネジャーが展開…現代らしい“攻め”の採用戦略

豊嶋アナがレポートする東京高校野球、都城東【後編】
深刻なマネジャー不足に直面しながらも、SNSを駆使し、地域イベントを企画し、改革案を提案する。東京の“公立の雄”、都城東の女子マネジャーたちはスマホ片手に課題と向き合っていた。「人手不足で選手を不自由にさせたくない」。その一心で奔走する姿に、東京の高校野球番組を10年以上取材を続けるフリーアナウンサーの豊嶋彬氏は、高校生ならではの柔軟な発想と行動力で困難を乗り越えようとする姿を見た。
現在、都城東野球部を支えるマネジャーは2年生3人、1年生1人の計4人。少数精鋭という言葉では片付けられない、ギリギリの人数だ。2年生の吉田珠里さんは、中高一貫校時代に母校の甲子園応援で高校野球の魅力に取りつかれた。入部後にスコアを一から覚え、今では地域からも好評のティーボール教室の準備リーダーを務める。同じく2年生の戸田小春さんは元野球選手。ソフトボール部と迷ったが、都城東の甲子園実績に惹かれて入部を決めた。現在は会計を担当し、用具購入や先生との折衝役を担っている。
彼女たちが総力を挙げて取り組んでいたのが、地域の子どもたちを招いた「ティーボール教室」だった。昨年の開催では100人以上の子どもと保護者が参加した大規模イベント。取材日の3日後に予定されていた今回も、吉田さんを中心に年明けから準備を進めてきた。前回のアンケートを分析し、メニューを改善。子どもたちがより楽しめるよう、手作りの小道具まで用意した。穴を開けた板にボールを通すゲームや、吊るしたボールで打撃練習ができる道具など、創意工夫が随所に光る。
100人規模の参加者を誘導するプレッシャーは相当なものだ。「前回は本当に大変でした」と振り返る。それでも選手たちの優しい対応や、参加者からの「楽しかった」という声が大きなやりがいになったという。日常業務の合間を縫っての準備、選手を交えたシミュレーション。万全の体制で臨む予定だったが、無情にも当日は悪天候により中止となってしまった。それでも、この経験は女子マネジャー人にとって企画力と運営能力を確実に高める貴重な財産となった。
こうした地域貢献活動に力を入れる背景には切実な事情がある。昨年4月、新入生のマネジャー志望者は「ゼロ」だった。野球部員の減少は全国的な課題だが、マネジャー不足もまた深刻な問題となっている。そんな危機的状況に現れたのが、1年生の野村理沙さんだった。夏の大会のわずか1週間前、別の部から転身してきた異例の入部。野球経験はプロ野球観戦程度で、同期は自分だけという不安な状況だった。

入部希望者ゼロも…志願者が現れた“引退試合”
入部直後に目撃した3年生の引退試合が、野村さんの心を決定的に変えた。「2週間しか一緒にいなかったのに泣きました」。一生懸命だった先輩たちの姿に心を打たれ、今では明るいキャラクターでチームを元気づける存在となっている。偶然の入部が生んだ奇跡的な出会い。しかし、いつまでも偶然に頼るわけにはいかない。チーフマネジャーの伊波千尋さんは、根本的な解決策を模索し始めた。
「選手の情報はHPにあるけれど、マネジャーの情報は少ない」。伊波さん自身、ブログやインスタグラムを見て入部を決めた経験がある。その体験を踏まえ、インスタグラムを活用した積極的な広報戦略を展開することにした。マネジャーの活動内容や魅力、やりがいを発信し、中学生に直接アピールする。SNSネイティブ世代ならではの発想で、従来の受け身の募集から攻めの採用へと転換を図る。現代の高校生らしい、柔軟で実践的なアプローチだった。
さらに伊波さんは、冬休み前に向けて大きな改革案をまとめていた。「業務効率化」と「新入生獲得」の2本柱で、先生や選手に対して提案する準備を進めている。「自分たちから意見を言い、改善を提案していきたい」。取材時はまさに提案直前の段階だった。前例踏襲ではなく、自ら課題を発見し、解決策を提示する。その姿勢は、まさに社会人顔負けのマネジメント能力と言えるだろう。人数は減っても仕事量は変わらない現実に、知恵と工夫で立ち向かう。
課題は山積みで、多忙な日々が続く。それでも4人全員が口を揃えて言う。「楽しい」「引退したくない」。充実感に満ちた表情がそこにはあった。豊嶋氏が見た高校生たちは、与えられた環境を嘆くのではなく、自分たちの手でより良いチームを作ろうとしていた。インスタグラムという身近なツールを武器に、地域との絆を深め、組織改革に挑む。マネジャー不足という逆境が、彼女たちの創造性と「なんとかしなきゃ」という責任感を引き出していた。高校野球の未来は、グラウンドの外でも着実に育まれている。
【筆者プロフィール】
豊嶋 彬(とよしまあきら)1983年7月16日生まれ。フリーアナウンサー、スポーツMC。2016年から高校野球の取材活動を始め、JCOMの「夏の高校野球東西東京大会ダイジェスト」のMCを務めている。高校野球への深い造詣と柔らかな語り口を踏まえた取材・実況が評価されている。スポーツMCとしての活動のほか、テレビ番組MCなど幅広く活動中。Xのアカウントは「@toyoshimaakira」、インスタグラムは「@toyoshimaakira」。
(豊嶋彬 / Akira Toyoshima)