中堅手は米野球殿堂で過小評価されてきた?
カルロス・ベルトラン氏(メッツなど)と元楽天のアンドリュー・ジョーンズ氏(ブレーブスなど)が、全米野球記者協会(BBWAA)の記者投票により2026年の米野球殿堂入りを果たした。2人のセンターフィールダー(中堅手)の選出は、今後の日本人選手の米殿堂入りへ“光”を灯す結果にもなったと言えるだろう。
過去、センターフィールダーは野球殿堂において歴史的に過小評価されてきたと言える。今回の2人を加えても、BBWAAの投票で選出されたのは10人程度。米メディア「ジョンボーイ・メディア」のジェイク・ストリアレ氏はこの点を強調し、1981年以降でも中堅を主戦場としてきた選手の選出はケン・グリフィーJr.氏(マリナーズなど)とカービー・パケット氏(ツインズ)しかいなかったと指摘した。
特にジョーンズ氏のケースは非常に興味深い。初年度の投票ではわずか7.3%の得票率に留まったが、資格9年目に75%の殿堂入り基準を突破(78.4%)する躍進を遂げた。ジョーンズ氏は1998年から2007年にかけて10年連続でゴールドグラブ賞を受賞し、通算434本塁打を記録したにもかかわらず、30歳を境に生産性が急激に低下したことで評価を落とした。しかし、投票者たちはエリート級の守備力とピークシーズンの功績を認め、キャリア後半の成績を差し引いても評価すべきと指摘するようになった。リーグ内の多くのアナリストは、殿堂入り適格性に対するBBWAA投票者の視点の変化を示した結果だと見ている。
米野球殿堂入りの近年の投票と選出傾向は?
近年の投票と選出では、高度な守備指標や走塁指標、さらにレートベースの指標(OPS+やWRC+などの統計)が重視される傾向にあり、野手ならば安打数や本塁打数、投手ならば勝利数や奪三振数といった「カウント統計」では見落とされがちな選手の価値を捉えようとしている。
これは過去数年間のBBWAA投票における継続的な傾向であり、ジョー・マウアー氏(ツインズ)、スコット・ローレン氏(フィリーズなど)、ラリー・ウォーカー氏(ロッキーズなど)らのように、従来の殿堂入り選手に求められてきた「カウント統計」での基準を欠いても選出される事例は見られてきた。
マウアー氏(通算2123安打)、ローレン氏(通算2077安打)、ウォーカー氏(通算2126安打)はいずれも通算2100安打前後でキャリアを終え、本塁打数もエリートレベルには達せず、通算400本にすら届かなかった(マウアー氏が143本、ローレン氏が316本、ウォーカー氏が383本)。しかし、レートベースの指標で優れた成績を収め、高度な守備指標(Defensive Runs Saved / Outs Above Average)や走塁指標(スタットキャストの走塁ラン値やベースボール・プロスペクタスのBaserunning Runsなど)でも高評価を得た。
今、多くの専門家は、これらが野球の変遷(選手のキャリア短縮化や出場機会減少)を反映した正当かつ必要な変化だと考えている。
絶対視されなくなった「キャリアの長さ」や「積み上げ式の記録」
昨今のMLBでは、3000安打や300勝といった従来の到達目標を達成することは難しく、投票者も選手の成功評価基準を転換しつつある。そのため、現代の選手にとって殿堂入りの可能性は広がっている。
こうした状況を受け、MLBネットワークのグレッグ・アムシンガー氏は同局の番組「MLBトゥナイト」で、安打や本塁打といった累積型統計が「もはや重要なのか」と疑問を呈した。共同司会者のハロルド・レイノルズ氏も「現在の統計分析手法や各種率統計、WAR(勝利貢献度)を考慮すれば、重要ではないと思う」と続けた。
レイノルズ氏はさらに大胆な予測を続け、来年の殿堂投票ではバスター・ポージー氏が初選出されると主張した。ポージー氏は短命ながら輝かしいキャリアで知られ、わずか12シーズンで3度のワールドシリーズ制覇、新人王、MVPを獲得し、通算WARは「45」を記録。通算成績は1500安打、158本塁打に留まるものの、その価値は計り知れないと強調した。
さらに、MLBネットワークのジョン・モロシ氏は「MLBトゥナイト」でベルトラン氏とジョーンズ氏の選出について「彼ら2人にとってだけでなく、センターフィルダー全体にとっての勝利の夜だ。トリー・ハンター(ツインズなど)のような選手にとっても素晴らしいことだ」と述べた。
MLBデビューが遅くなる日本人選手も殿堂入りの可能性が高まるか
センターフィルダーは元来、守備力重視の起用が多く殿堂入りには縁遠いポジションとされてきたが、守備力に定評があり、打撃はエリートレベルとは言えないハンター氏のような他の中堅手たちの選出根拠を築く先例になると主張した。この議論は投手陣にも波及し、多くのアナリストがコール・ハメルズ氏(フィリーズなど)、ジョン・レスター氏(レッドソックス、カブスなど)、フェリックス・ヘルナンデス氏(マリナーズ)ら、いずれもキャリアの長さや伝統的なカウント統計に欠ける選手の殿堂入り可能性に言及している。
ジョンボーイ・メディアのクリス・ローズ氏は自身のポッドキャスト「ベースボール・トゥデイ」で、先発6人ローテーションの増加傾向が長期的に与える影響を強調し、自身が1970~80年代に観戦していた4人ローテーションとの鮮明な対比を示した。
今日の投手は、その作業負荷が大幅に軽減されている。70年代には年間先発数が36を数え、投球回数は300イニングにも達しようとしていたが、現在の先発数は30試合以下、イニング数は200回にも満たない。そのため、「スポーツ・イラストレイテッド」 のトム・ヴェルドゥッチ氏をはじめ、多くのアナリストはハメルズ氏(通算2698回、163勝)やフェルナンデス氏(通算2729回2/3、169勝)のような投手もクーパーズタウンに選出されるべきであり、殿堂入り先発投手の新たな基準になるべきだと考えている。
これにより、NPBで初期キャリアを過ごすためメジャーリーグデビューが遅く、キャリアも短い傾向がある日本人投手や選手たちが、米国の野球殿堂入りを果たす可能性が高まることにもつながる。昨年、イチロー氏が日本人選手として初めて殿堂入りを果たしたが、現代野球における選手評価の変化に伴い、クーパーズタウンで輝く日本人スター選手たちがさらに増えることを期待できるようになった。
(笹田大介 / Daisuke Sasada)