あと1球で終了→わずか5球で“世紀の大逆転” 46歳で英雄が急逝…奇跡起こしたオランダに宿る「魂」

  • 佐藤直子 2026.03.09
  • 海外
ニカラグア戦でサヨナラ3ランを放ったオジー・アルビーズを祝福するオランダナイン【写真:ロイター】ニカラグア戦でサヨナラ3ランを放ったオジー・アルビーズを祝福するオランダナイン【写真:ロイター】

ニカラグア戦で大逆転劇を演じたオランダ代表

 米フロリダ州マイアミを舞台とする2026 ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)1次ラウンドのプールD。大会2日目を迎えた7日(日本時間8日)、その第1試合は世紀の大逆転劇となった。涙を呑んだのはニカラグア。そして、勝利の雄叫びを挙げたのはオランダだった。

 オランダが2点を追う9回2死。打席に立つセダン・ラファエレ外野手は2球で2ストライクに追い込まれたが、3球目の外角速球を捉えて中前に運んだ。すると、続くザンダー・ボガーツ内野手の打球は三塁線のギリギリ内側を転がるゴロに。このまま捕球→一塁送球アウトで試合終了、になるかと思った瞬間だ。

 三塁ベースに当たった打球は大きく跳ね、捕球体勢に入った三塁手の頭上を飛び越えて、左翼フェアゾーンに転がったのだ。

 球場に歓声とどよめきが響きわたる中、ボガーツは二塁まで進塁し、2死二、三塁。あと1ストライクで敗戦という絶体絶命の危機は、逆転勝利の絶好機へと転じた。

 ここでニカラグアのダスティ・ベイカー監督が選んだのは満塁策ではなく、オジー・アルビーズ内野手との勝負だ。

 アンヘル・オバンドー投手の初球は95マイル速球。吸い込まれるようにゾーン真ん中へ来た球を巧打者アルビーズが見逃すはずもなかった。豪快なスイングで捉えた打球は、大きな放物線を描きながら右翼スタンドへ。逆転サヨナラ3ラン。わずか5球でたぐり寄せた大逆転劇となった。

 チーム全員がベンチから飛び出して歓喜に沸く様子を、高い高い空の上から微笑みながら見守っていたであろう人がいる。オランダ野球界のレジェンド、シドニー・デヨング氏だ。

WBCに2度出場したデヨング氏が今年1月に急逝

 長年、オランダの正捕手&主砲として活躍し、WBCは2006年と09年に出場。引退後は指導者となり、2017年と23年には代表コーチとしてWBCに参加した。来日経験も豊富で、昨年3月の侍ジャパンシリーズにも同行。今大会にも参加予定だったが、あと2か月と迫った1月7日、46歳の若さで急逝した。チーム関係者によると脳にできた嚢胞が原因だったという。

オランダ代表のダグアウトに飾られたシドニー・デヨング氏のユニホーム【写真:佐藤直子】オランダ代表のダグアウトに飾られたシドニー・デヨング氏のユニホーム【写真:佐藤直子】

 ダグアウトには背番号「24」が輝くデヨング氏のユニホームが飾られ、初戦のベネズエラ戦が始まる前には故人の功績を偲び、黙祷が捧げられた。オランダ代表の常連で中心選手の1人、ディディ・グレゴリアス内野手は「シドニーは魂となって、みんなと一緒にここにいるよ」と言葉を続ける。

「彼はオランダ本国で野球を広めた人物の1人。文字通りのレジェンドだ。捕手として、リーダーとして、チームをまとめる存在だっただけじゃない。打撃のアドバイスもくれたし、みんなにとって頼れる存在だった。訃報を聞いたのはキュラソーにいる時。あまりに突然の話で、何を言われているのか、最初は分からなかったくらい。このWBCはチーム全員が彼の魂を感じながら、一緒に戦っているんだ」

 デヨング氏が何よりも楽しみにしていたのが、アンドリュー・ジョーンズ監督と共に狙うWBC初優勝だったという。初戦はベネズエラに2-6で敗れただけに、もしニカラグアに負けて2連敗を喫していたら、決勝ラウンド進出の可能性は極めて少なくなっていた。1次ラウンド突破の希望を繋いだ逆転劇は、デヨング氏に捧げる勝利ともなった。

 プールDには優勝候補の1つでもあるドミニカ共和国、そしてベネズエラが立ちはだかる。8日(同9日)のドミニカ共和国戦には1-12で敗れ、厳しい立場に立たされたが、野球は27個目のアウトを取るまで、何が起こるか分からないスポーツ。わずかでも可能性があれば現実のものにすることができる。デヨング氏が夢見た優勝も、まだまだ可能性は残されている。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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