“米国生まればかり”のイタリア代表…「世紀の番狂せ」に浮かべた涙 大金星がサッカー王国に与える価値

  • 木崎英夫
    木崎英夫 2026.03.11
  • 海外
米国を破った後、熱いハグを交わすイタリア代表を指揮するフランシスコ・セルベリ監督【写真:ロイター】米国を破った後、熱いハグを交わすイタリア代表を指揮するフランシスコ・セルベリ監督【写真:ロイター】

声を詰まらせたセルベリ監督「私の人生で最高の日のひとつ」

 米テキサス州ヒューストンで行われている第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)1次ラウンドのプールBで、大波乱が起きた。大会史上最強の呼び声の高いアメリカがイタリアに6-8で敗れた。これでアメリカ代表の準々決勝進出は11日(日本時間12日)のメキシコ対イタリアの結果次第となった。その試合でイタリアが勝てば1次ラウンド突破となるが、メキシコが勝てば失点率によって順位が決まる。

 9回裏、主砲のアーロン・ジャッジが空振り三振に倒れるとダイキン・パークは大きなどよめきに包まれた。イタリア代表のテーマ曲『コン・テ・パルティロ』が流れる中、歓喜の選手たちがハイタッチで気持ちを表した。1発出れば同点に追い付かれる厳しい場面を乗り越えて“世紀の番狂わせ”を演じたチームは、並々ならぬ意欲で今大会に臨んでいる。

 ダークホースはダークホースらしく、どんな難敵にも立ち向かっていくという強い意識を植え付けたのが、新任のフランシスコ・セルベリ監督である。「おそらく、私の人生で最高の日のひとつです」。試合後の会見で目を潤ませた。大会開幕前日の会見から一貫して「イタリアに野球を普及させることが目標」と言いつづけてきたセルベリ監督は、「大きな意味を持つ」と言うと、一瞬、声を詰まらせた。

会見するフランシスコ・セルベリ監督【写真:木崎英夫】会見するフランシスコ・セルベリ監督【写真:木崎英夫】

 自身はベネズエラの生まれでイタリア系の血を引く。現役時代は、ヤンキースとパイレーツで捕手として活躍した。サッカー王国のイタリアで「子どもたちに野球をもっと知ってもらいたい」という強い思いがある。昨年の大半をイタリア行脚に費やした。

 チームリーダーの一塁手ビニー・パスカンティーノは、謙虚な指揮官の姿を言葉で描いた。

「彼が自分からみなさんに言ったかどうかわかりませんが、この大会が終了したらすぐイタリアに行きます。各地を巡り、球場を訪れ、若い選手と交流し指導者と協力して代表チームの育成にかかわるんです。野球を教えにいくだけでもいいのに、彼はそうじゃない。アメリカ人が聞いたこともないイタリアの街に野球の文化を作ろうとしているんです」

イタリア代表の思い「僕たちは自分たちのためにやっているのではありません」

 今回のイタリア代表チームには、イタリアで生まれた選手はわずか3人。ベネズエラとカナダ生まれが3人で、圧倒的にアメリカで生まれ育った選手が占める。またMLB、マイナーリーグ組織に所属する選手が21人おり、イタリアは大会全体で、アメリカ(30人)、ドミニカ共和国(29人)、ベネズエラ(25人)に次いで4番目に多い。

 パスカンティーノはこの現状に鋭い眼差しを向ける。

「この大会の目標は、野球を人々に届けることです。人々を結び付けることです。僕たちはイタリアのチームがイタリア出身のイタリア人選手でいっぱいになることを望んでいます。イタリア語を話す選手たちが増える。それが理想です。それと同時に競争力のあるチームにもしたい」

 イタリア代表の面々には、強敵に勝つことでイタリアの野球普及活動の追い風にしたいという強い気持ちがある。パスカンティーノはこの日の戦い方を整理していた。

「このトーナメントは2つの異なる物語のようなものだと思っています。つまり、勝つべき2試合と、勝つとは思われていない2試合です。でも野球ですよ。どうなるかは誰にも分からない。ブラジル戦では5回で0-0でした。イギリス戦は初回に2点を取られて始まりました。でも、パニックになる必要はありません。アメリカとの試合も27アウトまで攻撃ができますから」

 2回に2本の本塁打で先制すると4回にはジャック・カグリオーンの2ランで加点。そして6回、失策や暴投のミスが出て3点を追加。終盤にエンジンがかかったアメリカに猛追されたが、最後はジャッジを仕留め重みのある1勝をつかみ取った。

イタリア代表のベンチに置かれたエスプレッソマシーン【写真:アフロ】イタリア代表のベンチに置かれたエスプレッソマシーン【写真:アフロ】

「僕たちは自分たちのためにこれをやっているのではありません。イタリアに野球文化を作るためです。野球環境を良くするためです。そうすれば野球が広がり、この大会に出てくる選手も増えます」

 本塁打を放った打者が生還するたび、パスカンティーノはベンチに置かれたエスプレッソマシーンからの一杯を提供し笑顔で称える。自身はここまでの4試合でノーヒット。堅実な守備で貢献しているが、11日(同12日)のメキシコ戦では祝いの一杯を口にするつもりだ。

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【マイ・メジャー・ノート】
 1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続ける在米スポーツジャーナリスト・木崎英夫記者による深堀りコラム。現場での取材からはもちろん、豊富な取材メモから送るエピソードも。コアなMLBファンのための記事を原則週1本配信。

○著者プロフィール
木崎英夫(きざき・ひでお)
1983年早大卒。1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続けるベースボールジャーナリスト。日刊スポーツや通信社の通信員を務め、2019年からFull-Countの現地記者として活動中。日本では電波媒体で11年間活動。その実績を生かし、2004年には年間最多安打記録を更新したイチローの偉業達成の瞬間を現地・シアトルからニッポン放送でライブ実況を果たす。元メジャーリーガーの大塚晶則氏の半生を描いた『約束のマウンド』(双葉社)では企画・構成を担当。東海大相模高野球部OB。

(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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