まぐれじゃない…イタリア快進撃の裏に“異例のチーム作り” 監督が主砲に伝えた「よし、これは君のチームだ」【マイ・メジャー・ノート】

  • 木崎英夫
    木崎英夫 2026.03.13
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メキシコ戦に勝利し喜ぶイタリア代表【写真:ロイター】メキシコ戦に勝利し喜ぶイタリア代表【写真:ロイター】

3試合で12の0…悩める主砲パスカンティーノが完全復活を確信した瞬間

 ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の1次ラウンド・プールBの最終戦が11日(日本時間12日)、米テキサス州ヒューストンのダイキン・パークで行われ、投打が噛み合ったイタリアがメキシコに9-1で快勝。4連勝で1位突破を決めた。前夜のアメリカ戦で世紀の番狂わせを演じたチームは、悩める主砲ビニー・パスカンティーノに大会新記録の3本塁打が飛び出し、決勝トーナメントへ向けて弾みを付けた。
 
 重圧も責任も感じていた。

 チームの精神的な支柱を担うパスカンティーノは、試合前にフランシスコ・セルベリ監督に打順降格を申し出た。しかし、指揮官はメンバー表の4番に彼の名を書き込み「心配はいらない。打てるヤツは打つ」と復調を期待した。

 そして、眠れる巨人が目を覚ました。

 ここまでの3試合で12打数無安打のパスカンティーノ。貪欲さは失っていなかった。先頭で回った2回表の第1打席、初球にセーフティーバントを試みた。結果はファウル。所属するロイヤルズで昨季32本塁打&113打点を記録したスラッガーは、出塁への意欲をさらに高めると、内角に動くカットボールを振り抜いた。気持ちが入った打球は高々と上がり右翼フェンス最前列に落下した。16打席目での初ヒットをアーチで決めた。

 待望の1本を出したパスカンティーノは、6回の第2打席で右翼ポール際にライナー性の打球を叩き込んだ。そして、8回の第3打席だった。完全復活を確信したのが、“ボール球の見送り方”だった。

「正直に言うと、2ストライク2ボールから見送ることができたのが本当に嬉しかった。(外角への)ボール球を追いかけてしまっていたので。『追いかけるのはやめろ、ボールは見送れ!』って自分に言い聞かせて。追い込まれてから誘ってくるその球を見送ることができたんですよ。よかったです」

 対峙したのは、昨季の防御率2.95を誇る193センチの長身左腕ロバート・ガルシア(レンジャーズ)。長い腕から繰り出す外角のスライダーは左打者には見極めが難しく、追い込まれた状況でしっかりと自制を利かせたことが3本目の右翼アーチにつながった。

チームの精神的な支柱を担うビニー・パスカンティーノ【写真:ロイター】チームの精神的な支柱を担うビニー・パスカンティーノ【写真:ロイター】

 5回表には1死一、三塁の場面で9番ダンテ・ノリがスクイズを決めるなど、小技も駆使して好機でそつなく得点を重ねていった。セルベリ監督は「攻めて攻めて攻めて、そして攻める。これがイタリア・ウェイ」と称え、柔和な表情を浮かべた。

現場レベルでの目線なくしてチームの一体感は作れない

 セルベリ監督は、イタリア代表のチーム作りをネッド・コレッティ氏(元ドジャースGM)らと進めてきたが、現場レベルでの目線なくしてチームの一体感は作れないと考えた。昨季ロイヤルズで自己ベストの成績を残し発信能力に長けるパスカンティーノをこの作業の推進役として抜擢している。

「ビニーが(現場の)すべてをまとめてきました。何か月も会話を重ねて、このチームをどう作るかを考えてきました。このチームは彼のものです。クラブハウスも彼のものです。このケミストリーもすべて彼が作りました。だから(次回大会でも)誰も離れないことを願っています」

 託されたパスカンティーノはその過程を振り返った。

「このチームがどうやってできたのか、その背景にはたくさんのストーリーがあります。このチームを僕がプレーヤーの視点から見てきた形で導くことを許してくれていることに本当に感謝しています。私に手綱を渡して、『よし、これは君のチームだ。どんなチームにしたい?』と言ってくれました。それは僕が決定をしているという意味ではなく、どうすれば各選手から最高のものを引き出せるか、という役割を意味しています」

ベンチに置かれたエスプレッソマシーン【写真: 木崎英夫】ベンチに置かれたエスプレッソマシーン【写真: 木崎英夫】

 フロントと現場の一体感は、ここまでの取材でも十分に伝わってくる。その背後には必ず「イタリアに野球を」という高い目標が見えている。セルベリ監督は、WBCで勝てるチームとなったイタリア代表の誕生プロセスを本にして、イタリア中に配りたいという考えがあると言う。

 イタリア代表名物となった本塁打後の熱いエクスプレッソの一気飲み。今までは差し出す側だったパスカンティーノは、この日3杯を口にした。この歴史的な3コマもセルベリ監督の1冊の中に登場してくることだろう。

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【マイ・メジャー・ノート】
 1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続ける在米スポーツジャーナリスト・木崎英夫記者による深堀りコラム。現場での取材からはもちろん、豊富な取材メモから送るエピソードも。コアなMLBファンのための記事を原則週1本配信。

○著者プロフィール
木崎英夫(きざき・ひでお)
1983年早大卒。1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続けるベースボールジャーナリスト。日刊スポーツや通信社の通信員を務め、2019年からFull-Countの現地記者として活動中。日本では電波媒体で11年間活動。その実績を生かし、2004年には年間最多安打記録を更新したイチローの偉業達成の瞬間を現地・シアトルからニッポン放送でライブ実況を果たす。元メジャーリーガーの大塚晶則氏の半生を描いた『約束のマウンド』(双葉社)では企画・構成を担当。東海大相模高野球部OB。

(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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