イタリア野球が迎えた“歴史的な日” 母国ではテレビ放送や新聞一面…止まらぬ快進撃の中心にいる主砲の献身【マイ・メジャー・ノート】

  • 木崎英夫
    木崎英夫 2026.03.16
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快進撃のイタリア代表を牽引するビニー・パスカンティーノ【写真:ロイター】快進撃のイタリア代表を牽引するビニー・パスカンティーノ【写真:ロイター】

4番パスカンティーノが逆転呼ぶ同点タイムリー

 第6回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の決勝トーナメント準々決勝(米ヒューストン)は14日(日本時間15日)、ダイキン・パークで行われ、イタリアがプエルトリコに8-6で逆転勝ち。猛打を発揮し、初のベスト4進出を決めた。

 止まらないイタリア旋風の中心にいるのはビニー・パスカンティーノだった。

 WBCの1次ラウンドで唯一4戦無傷でプールBを1位通過したトリコローレ打線はこの日もつながった。大会記録の14本塁打にあと2本と迫る好調打線を引っ張ったのは、11日(同12日)のメキシコ戦でWBC史上初の1試合3本塁打を放った4番パスカンティーノ。

 初回に先頭打者本塁打を浴びた直後の1回裏、1死一、二塁の場面でカーブを捉えた同点の中前タイムリーを放つと、これが口火になり後続の3連続タイムリーで一気に逆転。犠飛も含めこの回4点を挙げ主導権を握った。4回は2死から四球を選び出塁すると、後続2人も歩き満塁。この絶好機に7番フィッシャー、8番ドラツィオに連続タイムリー二塁打が出て4点を追加した。

 終盤8回に相手打線に4点を奪われ追い上げられたが、大金星を挙げたアメリカ戦とまったく同じ2点差で逃げ切り、初の4強入りを果たした。

珍しい盗塁に「この前のエスプレッソが効いているんでしょう(笑)」

 マイアミ行きの切符をつかむために、パスカンティーノは二盗を成功させた。好スタートの理由を問われて一言。「この前のエスプレッソが効いているんでしょう(笑)」。一発を放った選手には、生還後、ダグアウト内のエスプレッソマシンからの一杯が振る舞われる。メキシコ戦で濃厚なコクと強い苦みのそれを3度飲み干したのが駆動力の源だと言う。メジャー4年で「4盗塁」の男は会見場を笑いの渦に巻き込むと、ここまでの5戦を冷静に振り返った。

「USAに勝ったことで『ちょっと待てよ……。これは本当に世界を驚かせる可能性があるぞ』ってなって。あれはまぐれには感じませんでした。もちろん勝利にはまぐれもありますが、僕たちはほとんどの試合でいい野球をして勝ってきましたからね。だから今日は『いい野球をすれば勝てる』という気持ちで入ったんです」

 盗塁も決してまぐれを狙っていたわけではない。モニター画面に映る身長190センチ体重111キロの巨体は、強肩捕手でも刺すのは困難なほどの好スタートを切っていた。これも果敢に挑んだ結果だった。

 パスカンティーノは、イタリア代表が勝つためにフィールドの外でも活発に動いた。代表チームに集まった経験の浅い若いマイナーリーガーたちの不安を一番に考えた。大会開幕前の会見で「限られた時間でチームを一つにするチャレンジがある」と語っていた。この日の会見に同席し堅実なプレーを続けた21歳のアンドリュー・フィッシャーは、試合を重ねるごとに強くなっていくチームについて、「ビニ―が心を開かせてくれたのが大きい。チームの和ができてきた」と明かすと、横に座るパスカンティーノに微笑んだ。

発展途上のイタリア野球「このスポーツを通して人と人をつなげることが大切なんです」

 イタリア代表の理念は、「野球という競技を通じて人と通じ合う」。パスカンティーノはWBC4強を決めた試合をイタリア野球の歴史的な日と考える。

「イタリアではテレビで放送されていて、新聞の一面にも載っている。こうなることがこの大会の目的なんです。もちろん勝つことも重要ですが、人々の目を野球に向けさせること、このスポーツを通して人と人をつなげることが大切なんです。イタリアは野球選手の育成がまだまだです。でも今それを変えようとしている」

イタリア代表のセルベリ監督とコレッティGM(左から)【写真:木崎英夫】イタリア代表のセルベリ監督とコレッティGM(左から)【写真:木崎英夫】

 2026年のイタリア代表チームの編成を担当しているのが、元ドジャースGMのネッド・コレッティ氏である。自身の祖父母がイタリア人で米国に移り住んだ。コレッティ氏の思いは、「イタリアに野球を普及させること。そして、このチームに参加する機会を得た選手たちのことを思うと言葉に表せないほど嬉しいです」とフランシスコ・セルベリ監督とパスカンティーノとピタリと重なる。

 多民族国家アメリカに暮らす野球選手の多くが移民の子孫であり、彼らは野球を通じて自らのルーツに触れる喜びを見出そうとする。サッカーと比べて野球が盛んな国は少ないが、オリンピックやワールドカップよりは出場資格に制限をかけず、WBCの出場制限は、両親の母国や国籍等にまで広げることでより多くの選手に出場機会を与えている。

 アメリカを撃破した夜、パスカンティーノが言った「僕たちはイタリアのチームがイタリア出身のイタリア人選手でいっぱいになることを望んでいます」は、WBCの理念を映している。

 プエルトリコの大応援団が占める完全アウェーのフィールドで、イタリア代表メンバーは加わったスタッフと抱き合った。空へ舞い上がるような旋律の導入が感情を高める勝利のテーマ曲『コンテ・パルティロ』がこの日もダイキン・パークに響きわたった。

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【マイ・メジャー・ノート】
 1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続ける在米スポーツジャーナリスト・木崎英夫記者による深堀りコラム。現場での取材からはもちろん、豊富な取材メモから送るエピソードも。コアなMLBファンのための記事を原則週1本配信。

○著者プロフィール
木崎英夫(きざき・ひでお)
1983年早大卒。1995年の野茂英雄の大リーグデビューから取材を続けるベースボールジャーナリスト。日刊スポーツや通信社の通信員を務め、2019年からFull-Countの現地記者として活動中。日本では電波媒体で11年間活動。その実績を生かし、2004年には年間最多安打記録を更新したイチローの偉業達成の瞬間を現地・シアトルからニッポン放送でライブ実況を果たす。元メジャーリーガーの大塚晶則氏の半生を描いた『約束のマウンド』(双葉社)では企画・構成を担当。東海大相模高野球部OB。

(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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