緊張走る米国との決勝も「政治的な発言はしない」 ベネズエラ監督が“58”のキャップに込めた無言の訴え

  • 佐藤直子 2026.03.17
  • 海外
WBC決勝進出を決めたベネズエラ【写真:ロイター】WBC決勝進出を決めたベネズエラ【写真:ロイター】

日本時間18日の決勝は米国vs.ベネズエラの“因縁”対決

 2026 ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)決勝の組み合わせが、米国vs.ベネズエラとなった。3大会連続決勝進出の米国に対し、念願の決勝初進出となったベネズエラ。がっぷり四つに組み合う好勝負として期待が高まるが、図らずも両国間の政治的側面からも注目を集めることになった。

 今年1月、米軍はベネズエラの首都カラカス周辺を空爆し、反米左派のニコラス・マドゥーロ大統領夫妻を拘束。夫妻を米国に移送し、麻薬テロの共謀などの罪で起訴した。政情が不安定なベネズエラに介入する米国に対し、世界各国から非難の声は多い。米国は今月に入ってベネズエラ暫定政権と外交関係の回復に合意したと発表したが、緊張の糸は決して緩んではいない。

 こういった状況を踏まえ、ベネズエラ代表のオマー・ロペス監督は大会当初より「政治的発言はしない」と宣言。この日も試合前の会見で「決勝が米国戦となれば、政治的状況も踏まえて、準決勝に勝ちたい思いも強くなるのでは?」と質問されると、改めて「政治的な発言はしない。私が働いているのは野球界だから」と一蹴した。

 基本的にロペス監督は話し好きだ。

 本当であれば、両国間の状況についても一言物申したいところかもしれない。だが、現在は米国に住み、アストロズのベンチコーチを務める身だ。不用意な発言は自分を窮地に追い込むばかりか、周囲も巻き込む危険性がある。沈黙は金、を実践するしかない。

勝利を喜ぶオマー・ロペス監督【写真:ロイター】勝利を喜ぶオマー・ロペス監督【写真:ロイター】

ロペス監督「知り合いがベネズエラにいるなら、今すぐ電話して」

 だが、政治的発言を避けているからと言って、ロペス監督がベネズエラという国、そしてベネズエラ国民が直面する現状から目を背けているわけではない。ベネズエラの人々が非常に難しい状況に立たされていることに、心を砕いている。だからこそ、WBCで勝利を重ね、一度でも多く明るいニュースが届くようにしているのだ。

 準々決勝で日本に勝利した後、会見場に姿を現したロペス監督は、白字で「58」と書かれたネイビーのキャップを持参。そして「58」を指差しながら、興奮冷めやらぬ様子で話し始めた。

「ご存知ないようなら、58は国際電話を掛ける時のベネズエラの国番号だ。知り合いがベネズエラにいるなら、今すぐ電話して、ベネズエラがロス五輪の出場権を手にしたこと、そしてWBCでは準決勝に進出することを伝えてほしい」

 代表監督として「母国に喜びをもたらすことが私の責任」だと話す。ベネズエラの人々に勝利という明るいニュースを届け、少しでも難しい状況を忘れる時間と困難を乗り越える勇気を届けたい。そして、混乱の中で離れかけた人々の心が一つになるキッカケを作りたい。その思いがチームの結束を強め、初の決勝進出という快挙につながった。

 泣いても笑っても、あと1試合。ベネズエラに最高のニュースを届け、みんなで歓喜の瞬間を分かち合いたい。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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