日本一経験の「兄には手が届かない」 苦しんだ“比較”…聖地で躍動する弟へ託す夢

甲子園で躍動する阿南光・井坂海星【写真:加治屋友輝】
甲子園で躍動する阿南光・井坂海星【写真:加治屋友輝】

2年ぶり選抜出場の阿南光…好投手から追加点得られず涙

 甲子園で涙するナインに特別な想いを寄せる人がいた。19日に開幕した第98回選抜高校野球大会。大会1日目の第2試合は、ベスト8になった2024年以来2年ぶり、前身の新野時代を含めて3度目出場を果たした阿南光(徳島)が1-3で中京大中京(愛知)に敗れた。この試合に特別な想いを寄せる人がいた。前回出場時に吉岡暖投手とバッテリーを組んだ元主将・井坂流星さん(徳島医療福祉専門学校・2年)だ。

 高校卒業後、実家で暮らしながら理学療法士になるために勉強に励んでいる流星さん。出場校が発表された1月30日は授業があったため、友人や両親からの連絡で甲子園出場を決めたことを知った。選抜を目前に控えた3月中旬、流星さんは「僕たちは夏は出られなかった。その悔しさも一緒に持って行ってもらって、晴らしてきてほしいです」と思いを託すと、控えめな声で「弟もいるので」と加えた。

 弟とは、中京大中京戦に「8番・左翼」でスタメン出場した海星外野手(1年)のこと。兄の身長177センチ、体重75キロの体と比較すれば、身長171センチ、体重63キロの海星はまだ細身で、「全体的に兄には手が届かない」と眉を下げる。しかし、兄に劣らず50メートル6.0秒の足を生かしたスピードとガッツあるプレーが魅力だ。

 昨年の秋季徳島県大会。記者が母・沙奈恵さんに「甲子園8強のときの主将の弟ですよね?」と声をかけると、複雑な表情を浮かべた。「あの子はお兄ちゃんとは性格が真逆で、違うタイプ。ポジションも違うんですけど、それでもお兄ちゃん、お兄ちゃんと言われてきて。比べられているとうプレッシャーがあると思います」と、弟の“宿命”を明かした。

甲子園の打席に立つ阿南光・井坂海星【写真:加治屋友輝】
甲子園の打席に立つ阿南光・井坂海星【写真:加治屋友輝】

日本一の兄、比較されてきた弟「僕よりプレーの幅が広い選手になれる」

 宿命は最上級に重かった。兄・流星さんは中学時代の2021年に「ヤング阿南シティホープ」で日本一に輝いている。その3年後を歩む海星。沙奈恵さんは「すぐに『1番取った!』と報告してくるんです。嬉しさもあるんでしょうけど、お兄ちゃんとは違う道でって、心のどこかで思っているんでしょうね」。毎日食卓で顔を合わせるが野球の話はしていないという。

 流星さんも「小学校から高校までずっと同じ道なんです。どの所属先でも、僕の代の方が成績がよかった。(兄弟だからと)弟にも期待を寄せられて、弟にしか分からない気持ち、プレッシャーがあるんだろうなと思います。そこを僕が分かってあげるのはすごく難しい」と語る。

 だが、海星には兄とはまた別の強みがある。流星さんは、これまでは「フィジカル面で言うと数値的に、昔から僕の方が優れていた」が、「俊足で左打者という点は、僕にはないアピールポイント。僕はポジションの関係もあり盗塁をあまりしなかったのですが、弟は強みを生かせる。僕よりプレーの幅が広い選手になれる」とエールを送る。

 この日、海星は初回に左飛を掴んで満面の笑みをみせた。敗れはしたが、聖地に立つというプレッシャーを跳ねのけた。「まだ1年だから気負うこともないし、楽しんでほしい」と兄は温かい目で見つめる。「僕はベスト8だったので、それを塗り替えられたら、弟の方が成績がいいということになる。そうすれば少し気が楽になるんじゃないかな」と、いつか弟によって、兄が残した同校の最高成績が更新されることを願っていた。

(喜岡桜 / Sakura Kioka)

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