現役時代はメジャー昇格なし、22歳でスカウト兼指導者に転身したオマー・ロペス監督
ベネズエラ代表をワールド・ベースボール・クラシック(WBC)優勝へ導き、一躍、時の人となったオマー・ロペス監督。代表チームを離れれば、アストロズのベンチコーチとしてジョー・エスパーダ監督をサポートする。今回のWBCで代表監督からの退任を宣言しているロペス監督だが、ベネズエラ野球の発展のために取り組むプロジェクトは今後も継続するようだ。そのプロジェクトとは「指導者育成プロジェクト」だ。
ロペス監督は現役時代、ホワイトソックスやダイヤモンドバックス傘下マイナーで遊撃など内野手としてプレーしたが、メジャー昇格は一度もなかった。1999年に22歳の若さでスカウト兼指導者に転身し、アストロズがベネズエラに持つアカデミーで若手の育成にあたった。
元々、指導者としての資質を備えていたのだろう。ルーキーリーグから監督業を始めると1A、2Aと昇格を続け、ウインターリーグでも2014年からカリベス・デ・アンソアテギの監督に就任。たびたびチームを優勝に導き、年間最優秀監督に選出されてきた。そして2020年、ついにメジャーの一塁コーチに就任し、2024年からベンチコーチを務める。
選手としての実績はないかもしれないが、指導者としての実績はある。2022年にベネズエラ代表監督に就任すると、2023年の第5回WBCではベスト8、2024年の第3回プレミア12では4位という成績を残したが、結果に満足しなかった。特にプレミア12を戦い終えた後、未来のベネズエラ野球を考えた時に強く感じたのが「ベネズエラ人監督の教育プロジェクト」の必要性だったという。
才能溢れる選手が現れても、輝けるか否かは出会った指導者による部分は大きい。ご覧の通り、ベネズエラにはスーパースターの原石が数多く眠る国だ。次世代のロナルド・アクーニャJr.を育てるには、まずは指導者のレベルアップを図る必要がある。そこで、以前より親友かつ参謀として信頼を置くロビンソン・チリーノス代表ベンチコーチとともに取り組んでいた指導者の教育プロジェクトを本格化させることにした。
代表コーチのチリーノス氏とともに、知識や指導法を提供
ロペス監督には指導者としての経験と実績があり、レンジャーズ時代にはダルビッシュ有投手ともバッテリーを組んでいたチリーノス・コーチには捕手として10年超のメジャー経験がある。2人の経験を元に指導者として成長するために必要な知識や考え方、指導方法の例などをまとめ、提供しているという。
最近では、知人の助言により「心の知能(emotional intelligence)」について学びを深めているそうで「心理学の本、考え方・物の見方の本などを読み漁っている。様々なシナリオが想定される中でチームを率いていかなければならない。私にはとても役立っているし、他の指導者にも役立つはずだ」と話す。
選手としてメジャー経験はなくても、指導者として開花することはできる。自ら道を切り拓き、体現するまでに必要だった一切を次世代に伝え、ベネズエラ野球のさらなる発展につなげたい。その情熱は、代表監督を退いても、消えることはない。
ちなみに、2011年にデビューして以来アストロズ一筋で、MVPや首位打者など数多くの功績を残す“小さな巨人”ホセ・アルトゥーベ内野手を早くから見出し、契約を進言したのが、当時スカウトだったロペス監督だった。
WBC決勝の試合前に行われた記者会見で「ベネズエラで決勝を見る子どもたちに、どんなメッセージを送りますか?」と聞かれると、ロペス監督は真顔で力強く、こう答えた。
「勉強、勉強、勉強。未来のために準備をしなさい。良い子でいること。良い市民であること。家族の価値を敬いながら、次世代に繋いでいきましょう。これが非常に大切なことです。野球の練習をしましょうとは言いません。勉強をして、未来に備えましょう。それこそがベネズエラを素晴らしい国にする近道だから」
野球よりもまず、人としての学びを深めるよう呼びかけたロペス監督が今後、どんな指導者を育てていくのか楽しみだ。
(佐藤直子 / Naoko Sato)