元ロッテの荻野貴司、元広島の宇草孔基が今季からチェコでプレー
「本当はひっそり行って、ひっそり野球をやろうと思っていたんですけど」
そう笑うのは、今季からチェコの野球リーグ、チェコ・エクストラリーガの強豪ドラツィ・ブルノでプレーする荻野貴司外野手だ。スーツ姿でチェコ共和国大使館を訪問したこの日は、チェコ親善アンバサダー認定式に出席。同じく今季から同リーグのコトラーシュカ・プラハに移籍する元広島の宇草孔基外野手とともに「チェコ共和国公認」の親善アンバサダーに任命された。
1月にチェコ移籍が発表されて以来、荻野を取り囲む世界は猛スピードで広がった。マルチン・クルチャル駐日チェコ共和国大使に挨拶をしたり、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)1次ラウンド出場のために来日したチェコ代表チームを訪ねたり。よもや思わぬ移籍先だったからか、友人や知人、ファンからも応援の声が止まらない。「まだチェコに行っていないのに、こんなに反響があるなんて、本当にビックリでしかないですよね」と目を丸くする。
2009年のドラフトで、ロッテから1位指名を受けて入団して以来、盗塁王にも輝いたスピードを武器に走攻守すべてで光を放った。度重なる怪我に泣かされながらも貫いたロッテ一筋16年。日本ではロッテ以外でプレーすることは考えられないと、海外で現役を続けられる場所を探していた。
が、まさか、だ。自分がチェコで野球をすることになるとは、夢にも思わなかった。ただ、こうして巡ってきた新たなチャンスが素直にうれしい。「これも野球のおかげ。野球をしていなければ、チェコとつながることはなかったと思います」。
宇草もまた、「野球のおかげで新たな世界とつながれた」と喜ぶ一人だ。昨季限りで、デビューから6年プレーした広島を戦力外となった。正直なところ、広島を離れると決まってからここまで、野球を続けるかどうか、続けるとしたらどこになるのか、え、チェコで野球ができる…!? と「頭の中がグルグルしたまま」だと笑う。
高校、大学では侍ジャパンに選ばれ、国際大会に出場したが、いずれも開催地は日本だった。「海外生活が初めて。野球の試合は週末だけなので、チームのオーナーが経営するレストランやビール工場でも働かせてもらう予定です」と話す顔は、期待半分、不安半分。ただ、それを逆手にとってみようという思いもある。
「広島にいる時はSNSでの発信は一切していませんでした。でも、チェコに行ったらYouTubeやインスタなどを使って、どんどん発信していこうと思います。良いことばかりじゃなくて、海外で初めて生活する不安だったり、失敗だったりも含め、自分の記録としてもいいと思うんですよね」
1919年に当時のチェコスロバキアと外交関係が樹立して以来、一時は戦争で途絶えながらも、両国の友好関係は長らく続いている。大相撲では、幕内優勝力士に必ずチェコ友好杯が贈られるが、これは1970年の大阪万博を機に始まった55年以上続くもの。最近では、WBCでチェコ代表が見せた懸命なプレーの数々が話題となり、注目を集めた。
野球を通じて生まれたチェコとの縁。もちろん、所属チームを優勝へ導くため全力を尽くすことが最優先だが、親善アンバサダーとして「チェコと日本をつなぐような活動もしていきたいと思います」と荻野は言う。「チェコ野球の現状もそうですし、どんな国でどんな文化なのか、日本ではまだまだ知られていないことも多いと思うので、SNSも使いながら色々な発信をしていきたいと思います」と、野球選手+親善アンバサダーの二刀流で活動する心意気だ。
親善アンバサダー就任式を終えると早速、荻野も宇草も出来たばかりの「チェコ親善アンバサダー」の名刺を配りながら、宣伝大使としての活動をスタートさせた。日本から約9000キロ離れたチェコで、どんな野球を体験し、どんな文化や生活に触れるのか。二人の発信を心待ちにしたい。
(佐藤直子 / Naoko Sato)