米で「解説者」→「監督」への転身が増える理由、現場経験より大切なもの
ア・リーグ東地区の名門2球団の現監督は、揃って解説者の出身
今シーズンから就任した新たな監督2人が、リーグ最高勝率1位・2位を争っている。ボストン・レッドソックスのアレックス・コーラ監督とニューヨーク・ヤンキースのアーロン・ブーン監督だ。この2人には共通点がある。それは、共にメジャーやマイナーでの監督経験がなく、解説者を経て、メジャーリーグ球団の指揮を執ることになったという道筋だ。
コーラは2011年を最後に現役引退し、その後はESPNで解説者を務めてきた。昨年はワールドシリーズ優勝を果たしたヒューストン・アストロズのベンチコーチとして過ごし、わずか1年後にレッドソックスの監督に就任した。このベンチコーチ時代にはヒンチ監督が退場となった試合で、代わりに指揮を執ったことがある点は補足しておく。さらに、メジャーリーグの舞台とは異なるが、母国プエルトリコで開催されたウインターリーグでの監督経験も持ち合わせている。
一方、ヤンキースの監督に就任したブーンは2009年シーズンを最後に現役から退いており、その後はコーラと同じくESPNで解説者として中継を盛り上げてきた。ブーンに至ってはいかなる現場での経験もなく、伝統あるヤンキースの監督に抜擢された。2人とも兄もメジャーリーガーという野球一家で育った共通点もある。
なぜ現場経験が全くない、あるいは少ない人物が、メジャー球団の監督に抜擢されているのかを考えてみたい。まずは、そういう人物が監督に就くことで、何をチームにもたらすかを想像する時、日本の野球ファンにとっては北海道日本ハムファイターズの栗山英樹監督を思い浮かべると分かりやすいかもしれない。
現役引退後はスポーツキャスターや大学での仕事をはじめ、様々な形で野球に携わっていたが、現場での監督経験はファイターズを指揮する2012年まで皆無だった。それでも栗山監督がファイターズだけでなく、球界に大きな影響をもたらしていることは、野球ファンだけでなく、幅広い層の人々が知るところではないだろうか。おそらく伝統あるレッドソックスやヤンキースという球団も、変わりゆく時代の中で今のチームに合った指揮官として選んだのが監督経験のない2人だったのだろう。
こういった人選が珍しくなくなってきた理由として考えられるのは、セイバーメトリクスに代表されるデータの存在があるのでないだろうか。現場にデータが浸透してきたため、それを理解し、選手たちに上手く活用させることが新たに求められてきている。そのため中継の仕事で様々なデータを言語化してきた解説者としての経験は大きく、現場が求めているニーズとフィットしたのではないだろうか。戦術面だけではなく、コミュニケーターとしての能力が非常に重要な時代となってきているのだろう。