甲子園に“名物おじさん”復活 2023年夏を最後に一度は足が遠のくも…「急にみたくなった」

かつて甲子園大会全戦をラガーシャツ、黄色いキャップ姿で観戦し有名に
第98回選抜高校野球大会は3月31日に決勝が行われ、大阪桐蔭が7-3で智弁学園(奈良)に勝利。春夏通算10度目(春5度・夏5度)の全国優勝を果たした。実は今大会では、かつて甲子園名物として知る人ぞ知る存在だった“ラガーさん”が秘かに復活し、全31試合観戦を達成していた。
かつて春夏を通じ、高校野球の甲子園大会全試合で、鮮やかな柄のラガーシャツと黄色いキャップ姿の男性がネット裏最前列で観戦し続けていることに、テレビの実況中継の視聴者が気付きはじめ、いつしか“ラガーさん”の通称で有名になっていた。
本名・善養寺隆一さん。甲子園で高校野球を初めて観戦したのは、剛腕・渡辺智男投手を擁する伊野商(高知)が準決勝でKKコンビ(清原和博内野手と桑田真澄投手)のPL学園(大阪)を破り、決勝でも帝京(東京)を下して優勝した1985年春の選抜だった。
高校野球に魅せられたラガーさんは、甲子園大会を毎年、開幕から閉幕まで、夜は球場8号門前に寝袋にくるまって徹夜で並び、全試合を当時自由席でだったネット裏最前列で観戦するようになった。
都内の自宅と甲子園の往復は、専ら深夜バス。大会期間中は、知人宅を間借りして荷物置き場と休憩用に当て、風呂は銭湯を利用してきたという。
そんなラガーさんに大きな変化が訪れたのは、2016年の春の選抜だった。ネット裏席前方に「ドリームシート」が設けられ、小・中学生を公募の上で無料招待するようになり、ラガーさんは定位置を追われる格好になった。
2021年の選抜からは全席指定となり、「俺は昭和生まれのアナログな人間なので、インターネットをうまく扱えず、思うようにチケットを取れない」というラガーさんは、慶応(神奈川)が107年ぶりの優勝を飾った2023年夏を最後に、甲子園から足が遠のいていた。
今大会の観客動員は全席指定席化以降最多の39万5800人に上った
ところが今大会、「正月から中学野球をずっと見ていた流れがあって、開幕前に急に見たくなった」。難問のチケット取得は「何人かの友だちがネットで取ってくれた。みんなに感謝です」と頭を下げる。そのお陰で連日、ネット裏の前方から中段付近の席で観戦することができた。
テレビ中継に映ることはなくなったが、「球場のトイレに行く時などに、昔ほどじゃないけれど、多くの方々に声をかけてもらったり、写真を頼まれたりする。うれしいね」と頬を緩める。
決勝については「やっぱり大阪桐蔭は強かった。バスターやエンドランを絡めて、試合巧者ぶりを発揮したよね。智弁の杉本(真滉)投手(3年)はこれまでずっといいピッチングをしてきたけれど、少し疲れていたのと、大阪桐蔭の打線に研究されていたために、打たれてしまったね。ストレートを狙われていたものね」と玄人はだしの評論を披露した。
そんなラガーさんは現在59歳で、8月には還暦を迎える。親の代からの印刷業を数年前にやめ、貸店舗と家賃収入で生計を立てているという。
「甲子園に来ると、体力もお金も使う。ただ、お金はあの世までは持って行けないからね。生きているうちに楽しまないと。体力が続く限り、また来たいかな。俺のライフワークだから!」と力を込めたラガーさん。
主催者発表によると、今大会の観客動員は計39万5800人に上り、全席指定となった2021年以降では最多だった。甲子園のスタンドに帰ってきたラガーさんの念力が、人知れず大会を後押ししていたのかな……。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)