昨季ドジャースに加入したウィル・クライン、DFA2日後に訪れた転機
1年でキャリアは劇的に変わる。19日(日本時間20日)の敵地でのパドレス戦でメジャー初セーブを挙げた26歳のウィル・クライン投手は、昨季途中からドジャースに加入。ワールドシリーズ(WS)第3戦では延長15回から4回を投げ抜く力投で勝利を手繰り寄せ、一躍英雄となった。今年はブルペンに欠かせぬ存在に成長。マイナーで防御率7点台のどん底から覚醒した理由に、独占インタビューで迫った。
「答えを探していました。いろんな方向を見すぎていたのかもしれません」
2025年5月30日(同31日)。クラインはワシントン州タコマで途方に暮れていた。マリナーズ傘下3Aでこの年22試合目の登板。一発を浴びるなど、1回2安打1失点を喫した。見届けた観客は7218人。防御率7.17となった右腕は翌日、メジャー出場前提の40人枠から外された。1月にアスレチックスから受けたのに続き、5か月間で2度目のDFA。明るい未来など、見えるはずもなかった。
2日後の6月2日(同3日)、転機が訪れる。ジョー・ジャッキーズ投手とのトレードでドジャースに移籍が決まった。「あれは僕の人生で起きた最高の出来事ですね」。ただ再起のチャンスを得ただけではない。新たな環境は、クラインの意識を大きく変えた。
「ここのスタッフやコーチたちは本当に信じられないぐらい素晴らしいんです。野球のコーチはもちろん、メンタルコーチやストレングスコーチら全員がそれぞれの仕事に本当に優れています。そしてコミュニケーションも素晴らしい。3Aにいた時でさえ、それは一流でした。だから彼らと一緒に取り組めたことで自信がついたんです」
最高のサポート体制が悩める若者に植え付けたのは、「自分を信じること」だった。それはチームメートも同じ。「ここの文化や仲間たち。誰もが自分を信じ、他のみんなを信じているんです。おかげで僕も自分のことを信じやすくなりました。それが一番大きかったですね」。再び、顔を上げてグラウンドに向かう日々が始まった。
右打者対策で習得したスイーパーが大きな武器に
6月20日(同21日)に初昇格。翌日にドジャースでの初登板を果たした。当時の武器はフォーシームとカーブの2つのみ。さらなるステップアップのためにコーチから提案を受けた。「対右打者用にもう一つ何か必要だ。試してみないか」。勧められたのは、スイーパーだった。7月末からマイナーに戻り、習得への取り組みが始まった。
「試しに投げ始めてみたらデータ上でも良かったので、『よし、試合でもトライしてみよう』となりました。(3Aの)オクラホマシティでどんどん投げるようになり、うまくいったのでそこから続けている感じです。実際のピッチングに関しては、それが一番大きな変化でした」
9月19日(同20日)に再昇格すると、新たな武器を「完全解禁」した。翌日のジャイアンツ戦ではスイーパーを織り交ぜ、3者連続三振。そこから4試合で4回2/3を投げ、2安打6奪三振、無失点と安定した投球でブルペンを支えた。
迎えたポストシーズン。最初の3シリーズで登録外だったクラインは、WSから念願のロースター入りを果たした。10月24日(同25日)の初戦は敗戦処理として1回を無失点。その3日後、第3戦で伝説を作ることになる。
伝説となった72球「こんなことが待っているなんて想像もしなかった」
2025年10月27日(同28日)。7218人の前でうなだれた日からちょうど150日。青く染まったドジャースタジアムの真ん中で、クラインは5万2654人の喝采を一身に浴びた。
「タコマに座っていた時には、数か月後にこんなことが待っているなんて想像もしませんでした。クレイジーですよね」
同点の延長15回からドジャースの10番手としてマウンドへ。もう投手は残っていない。なかなか決着はつかず、前日に105球完投勝利をあげた山本由伸投手がブルペンで準備を始めるほどの非常事態。“無名”だった右腕は、100マイルに迫る剛速球とスイーパーを武器に、強打者を次々にねじ伏せていった。
気づけばキャリア最長の4回を投げていた。1安打5奪三振、無失点。18回にサヨナラ2ランで試合を決めたフレディ・フリーマン内野手は、誰よりもクラインを称えた。渾身の72球。「人生全てが変わりました。いろんな人からたくさんメッセージをもらいましたよ」。たった一晩で、ロサンゼルスのスーパースターになった。
変わらぬ謙虚な姿勢「天狗になったりしないように」
「家では妻と一緒に、以前と同じように振る舞うように心がけています。調子に乗ったり、天狗になったりしないように」。照れくさそうに笑う姿は謙虚そのものだ。「でも、野球面では今年もチャンスをもらえましたし、間違いなく自信がつきました」。今季は開幕からブルペンの一角を任され、5月19日(同20日)のパドレス戦でキャリア初セーブを挙げるなど、勝ちパターンを担っている。
「ここまで長い道のりでした。昨年の今頃は、数か月先のことすら見通せないような状態でしたから。初セーブを記録できて、本当に最高です」
一瞬の輝きで終わるつもりはない。幸いにも、お手本はたくさんいる。
「周りにはとんでもない選手がたくさんいて、将来殿堂入りするような人たちと一緒にいるわけです。だから彼らがどう行動しているか、なぜあんなに凄いのかを観察するようにしています。側にいるだけでそれを吸収し、自分の毎日の過ごし方に取り入れることができています」
26歳のキャリアは始まったばかり。答えを見つけた剛腕は、真っ直ぐに未来を見据えた。
(鉾久真大 / Masahiro Muku)