ド軍で7年間“塩漬け”も移籍は「考えたことない」 28歳苦労人、本拠地デビュー戦で初HR…2546日の道のり

キャリア初ホームランを放ち祝福されるドジャースのライアン・ウォード【写真:黒澤崇】キャリア初ホームランを放ち祝福されるドジャースのライアン・ウォード【写真:黒澤崇】

1日のフィリーズ戦で本拠地デビューを飾ったライアン・ウォード

 待ちに待った一発だった。ドジャースの28歳ライアン・ウォード内野手は5月31日(日本時間6月1日)のフィリーズ戦に「7番・左翼」で先発出場し、待望の本拠地デビュー。2打席目でキャリア初の本塁打をライトのブルペンに叩きこんだ。マイナーで実績を残しつつも、層の厚さに阻まれて出番がなかなか回ってこなかった苦労人。弾ける笑顔の裏には、長い道のりがあった。

 眩しいロサンゼルスの青空に、白球が吸い込まれていく。手応えは十分。一塁に走り出しながら、ウォードは打球が右翼フェンスを越えていくのを見た。「頭が真っ白になりました」。感覚が麻痺し、5万667人の大歓声が遠くに聞こえる。「思い描いていた通りの最高な瞬間でした」。無我夢中でダイヤモンドを一周した約20秒間は、これまでの道のりとは対照的に、あまりにあっという間だった。

 遡ること2546日前。ドラフト8巡目(全体251位)で指名を受けたウォードは、2019年6月11日(同12日)、ドジャースと契約を結んだ。2022年に2A、2023年には3Aへと順調に昇格。2024年には3Aで120試合に出場し、33本塁打、101打点をマークした。

 同年11月には米国代表としてプレミア12にも出場。東京ドームで行われたスーパーラウンドのベネズエラ戦で9回に決勝ソロを放つなど、5本塁打で大会ホームラン王にも輝いた。

 昨年も3Aで143試合に出場し、パシフィック・コースト・リーグ(PCL)トップの36本塁打、122打点、73長打、315塁打をマーク。同リーグのMVPにも選出された。マイナーでの実績は十分。だが、基本的に両翼と一塁のみという守備と、ドジャースの選手層の厚さに阻まれ、なかなかチャンスが巡ってこなかった。

他球団への移籍は「考えたことがない」

 このまま“塩漬け”になるぐらいなら、大物をトレードで獲得するための対価として他球団に放出したほうがいいのでは……。ファンの間では早期の昇格を期待する声とともに、こんな意見も囁かれた。しかし、ウォードが望んでいたのは、ドジャーブルーを着てメジャーの舞台に立つこと。出場機会を求めて他球団でプレーすることは「考えたことがない」と言い切る。

「僕はLAからドラフトされて、LAでデビューし、プレーしたいとずっと言ってきました。ドジャースは本当に素晴らしい組織です。選手としての今の自分があるのは彼らのおかげですし、ここの選手育成は信じられないくらい素晴らしいんです。だから、こうしてチャンスを掴めたことが本当に嬉しいです」

 待ち望んだ日は2026年4月19日(同20日)にやってきた。敵地コロラドでのロッキーズ戦。フレディ・フリーマン内野手が妻の出産に立ち会うための「父親リスト」に入ったことに伴い、メジャー初昇格、初出場を果たした。デビュー戦で初安打を放つなど5打数2安打1打点の活躍。翌日の同カードも代打で1打席に立ったが、フリーマンの復帰にあたり、たった2日で再びマイナーに降格した。

ロッキーズ戦で初ヒットを放ったウォード【写真:黒澤崇】ロッキーズ戦で初ヒットを放ったウォード【写真:黒澤崇】

 また3Aのあるオクラホマシティに戻り、黙々とバットを振り続ける日々。下からもジェームズ・ティブス3世外野手など強力なライバルが上がってきている。それでもテオスカー・ヘルナンデス外野手の負傷者リスト入りに伴い、昇格を勝ち取ったのはウォードだった。

 5月29日(同30日)、ついにドジャースタジアムのクラブハウスにウォードの席が出来た。「このロッカールームは本当に信じられないです。ここにいる選手たちは桁外れ。至るところに殿堂入りレベルの選手がいるんです。だから今は、彼らを観察し、どう練習に取り組んでいるのか、どう準備しているのかを見て、学んでいます」。表情にワクワク感が滲んだ。

3Aの戦友とアベック弾「本当に最高でした」

 一方、オクラホマシティでともに戦ってきた馴染み深い仲間もいる。その1人が24歳のアレックス・フリーランド内野手だ。試合前の練習も一緒に過ごし、フィリーズ投手陣の対策についても話し合った。ウォードの本拠地デビュー戦となった31日。2人はともにスタメンに名を連ねた。

 初回、左翼の守備に就き、伝統あるスタジアムをグルっと見渡す。「とにかく楽しもう」。第1打席は空振り三振。それでも、積み重ねてきた日々が緊張を和らげた。

「これまでの数年間を振り返って、自分がやってきた取り組みを信じました。ここまで自分を連れてきてくれたこと全てを信じ、来る日も来る日も取り組んできたことを続けるだけです」

念願のドジャースタジアムでの“デビュー”を飾ったウォード【写真:黒澤崇】念願のドジャースタジアムでの“デビュー”を飾ったウォード【写真:黒澤崇】

 4回先頭の第2打席。高めのスライダーを豪快に引っ張った。記念すべきキャリア初ホームラン。1死後、9番に入ったフリーランドも右越えソロで続いた。「本当に最高でした。同じイニングに2人ともホームランを打てるなんて、本当にクールな瞬間でした」。ダグアウトでしっかりと抱き合った。

 左投手が出てきたため、5回から交代。ウォードの本拠地デビュー戦は2打数1安打1打点で終わった。チームも9-1で快勝し、クラブハウスで盛大に祝われた。「しばらくは僕から変な匂いがすると思います。(何の匂いかは)ご想像におまかせします。全身にかけられましたから(笑)」。記念のボールを手にし、ロッカーで笑顔が弾けた。

大谷翔平(右)に祝福されるウォード【写真:黒澤崇】大谷翔平(右)に祝福されるウォード【写真:黒澤崇】

 もちろん、勝負はこれから。怪我人が帰ってくれば、再び降格する可能性は高い。「自分にできることを全てやり、自分のプレーを続け、準備を怠らずに成長し続けるだけです」。限られたチャンスでいかにアピールできるか。苦労人の挑戦は新たなステージで続いていく。

(鉾久真大 / Masahiro Muku)

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