【独自】3Aに行っても「電話はいつでも繋がるから」 ロハスが降格直後のキム・ヘソンに伝えた言葉…師匠が授けたバット

精神的支柱としてドジャースを支えるミゲル・ロハス【写真:黒澤崇】精神的支柱としてドジャースを支えるミゲル・ロハス【写真:黒澤崇】

5月30日にマイナー降格を告げられたキム・ヘソン、“師匠”ロハスに伝えたこと

 5月29日(日本時間30日)のフィリーズ戦前、ドジャースタジアムのロッカールームでは昇格したライアン・ウォード外野手、サンティアゴ・エスピナル内野手が同僚たちとの再会を喜んでいた。一方、ひとり遠征用のバッグに荷物を詰めていたのは、降格を告げられた直後のキム・ヘソン内野手だった。

 今季がドジャース2年目。一時は打率3割台と結果を残し、5月上旬までは安打も出ていたが、直近の16試合では打率.174と苦戦。特に三振数が増え、1試合3三振など全くバットに当たらない日も出てくるようになっていた。

 試合の約4時間前、メディア向けにロッカーがオープンされると、ハンガーから自分のウエアを外していたキム・ヘソンの姿があった。日本メディアにはいつも通り「コンニチハ~」と目を細めて笑顔で挨拶してくれたが、内心は複雑だったはずだ。

 荷物を一通り整理した後、通訳を呼びよせて歩いて行ったのは試合に向けて準備するミゲル・ロハス内野手のもとだった。メジャー帯同中、熱心に指導を受けていたキム・ヘソンは、チームを離れる前に伝えておきたいことがあった。ロハスがその会話の中身を明かした。

「彼(キム・ヘソン)は『すぐまた会いたいです』と言ってくれた。だから私は『近いうちに必ず戻ってくると確信しているよ』と伝えたんだ。彼がここにいる間に私たちが一緒に取り組んだことに対して、彼は改めて感謝の言葉を口にしてくれた。私は彼のことを友人だと思っているし、彼が私のことを良きメンターのように思ってくれていることを本当に嬉しく思った」

 ロハスはキム・ヘソンの目を見ながら、いつものように優しく“アドバイス”を送った。

「とにかく彼には、前向きでいてほしかった。彼は素晴らしい選手で、素晴らしい人間だと知っているからね。それに、マイナーに行くことを悪いことだと捉えてほしくなかったんだ。私たち全員に起こり得ることだからね」

 同じ内野のユーティリティ選手として、昨年からメジャー流の守備をみっちり教えていたのがロハスだ。2人で何度も早出ノックを行い、足の運び方、グラブの使い方を丁寧にレクチャー。その関係はまさに師匠と弟子だった。

メジャーでのキム・ヘソン(右)の成長を見守るミゲル・ロハス【写真:黒澤崇】メジャーでのキム・ヘソン(右)の成長を見守るミゲル・ロハス【写真:黒澤崇】

「ユーティリティプレイヤーとして様々なポジションを守り、内野を動き回らなければならない時は、準備の仕方も違ってくる。だから彼を助けたい、私がキャリアの中で理解しなければならなかったことを彼が理解するための助けになりたいんだ。もし私が彼の力になれれば、彼が最高の選手になるために、成長のプロセスは少し早くなるはずだからね」

 ロハスはベネズエラ出身。異国でプレーすることの難しさは理解している。日本人選手や、韓国からやってきたキム・ヘソンがチームに馴染みやすいよう、チームリーダーとしての配慮は欠かさない。同じ二遊間を守る後輩に、自分の知識を惜しみなく伝授した。

「私が彼に最初に話したのは、野球において自分がどういう存在になるべきか、すでに分かっているはずだということ。チームは彼に、色々なポジションをこなせる選手になってほしいと望んでいる。だからこの機会を捉えて、マイナーに行って毎日何かを上達させてこいと伝えました。様々なポジションを守りながらバッティングの練習も続けるのは簡単ではないとわかっているけど、彼が最高のユーティリティプレイヤーになれることをチームに示し続ける良い機会だと感じている」

ロハスが説いた“継続”「彼の練習態度は素晴らしいものがある」

「今のやり方で努力を続けるんだ、きっとうまくいくから」

 キム・ヘソンはメジャー帯同中は必ずと言っていいほど早出練習を行い、ノックや打撃練習で汗を流していた。少なくとも記者が目にできるグラウンド上では、チーム内で誰よりも練習していたといって相違ないだろう。

「彼の練習態度は素晴らしいものがある。いつも練習していて、常に学ぼうとする意欲を持ってる。このポジションにいるのは簡単なことではないからね。だから私は彼に言った。『いつチャンスが巡ってくるかなんて誰にもわからないから、今できることに全力を傾けておけば、将来良い選手になれるんだ』とね」

2025年、ワールドシリーズ進出を決めて喜ぶキム・ヘソン(左)とミゲル・ロハス【写真:アフロ】2025年、ワールドシリーズ進出を決めて喜ぶキム・ヘソン(左)とミゲル・ロハス【写真:アフロ】

 3Aのチームはロサンゼルスから約2000キロ離れたオクラホマシティにある。そこでまたキム・ヘソンが悩みにぶつかっても、ロハスは寄り添う。

「彼への最大のメッセージは、『僕への電話はいつでもつながるから』ということ。何か必要だと感じた時は、いつでもメールか電話をしてこいと言った。自分は彼のためにここにいるし、彼が戻ってくるのが本当に待ちきれない。今年だけでなく、それ以降もだ。自分はこの組織に長く留まりたいと思っているし、現役を引退したあとも彼を指導し続けたいと願っている。彼を最高のユーティリティ選手にする手助けができることを楽しみにしているんだよ」

「よし、行こうか」ロハスがキム・ヘソンを連れて向かった場所

 ロッカールームで“しばしの別れ”の会話を終えた後、ロハスは「よし、行こうか」と、キム・ヘソンを連れて部屋の外へ出ていった。向かったのは選手たちのバットが保管されている場所。ロハスは自分が使うモデルのバットを2本、キム・ヘソンに授けた。

 キム・ヘソンは今季、練習や試合で様々なメーカーのバットを使い、手ごたえを模索していた。ロハスからもチャンドラー製のバットを借りていた。

「私のバットが気に入っていると言っていたから、2本持っていくよう言ったんだ。彼にとって良い結果につながることを願っているよ」

 球場に来るファンを横目に、通訳とドジャースタジアムを去ったキム・ヘソン。返り咲く日を、師匠は楽しみに待っている。

(上野明洸 / Akihiro Ueno)

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