選手はバイトで生活費、資金難でボロボロの設備 強豪私大との“差”も…公立大が狙う下剋上

就任後初めて駒を進めた全国大会の初戦を白星で飾った
“公立の意地”を見せた。第75回全日本大学野球選手権記念大会が8日に開幕。東京ドームで行われた1回戦で、21年ぶり6回目の出場の北九州市立大(九州六大学野球連盟)が3-2で花園大(京滋大学野球連盟)に競り勝った。環境面の不利を跳ね返しての白星。チームを率いる山本浩二監督は、“ミスター赤ヘル”と同姓同名で、珍しいバックグラウンドも持つ変わり種だ。
この日はエースで主将も務める山下薫輝投手(4年)が先発し、6回11奪三振1失点の好投を演じた。8回には2番手の宮原颯大投手(4年)が1点差に迫られた上、2死満塁のピンチを招くも、ここで山本監督が「逆境で燃えるタイプ」と絶大な信頼を寄せる高山柊吾投手(3年)が3番手で登場。フルカウントからスライダーで空振り三振に仕留め、勝利を引き寄せた。
就任6年目の山本監督は、秋の明治神宮野球大会を含め、就任後初めて駒を進めた全国大会の初戦を白星で飾ったが、「ウチの大学は過去に、全国大会で2勝したことがない。それを目標にやってきました。ですから、ここで喜んではいられません」と改めて表情を引き締めた。
公立の北九州市立大は、強豪私立大に比べると環境面で“劣る”部分が大きい。部員は99人に上るが、学業優先で全体練習は毎朝7時に集合し30分のミーティング後、7時半から10時までに限られている。1限目に授業がある部員は、それすらままならない。「夕方は授業があるので、全部員が集まれるのは朝しかありません。全員で同じメニューを行うところを大切にしていますが、やはり結果を残すのは、しっかり自主練習を行っている部員です」と山本監督は指摘する。
専門の指導者は山本監督1人で、部員の中から選出された学生コーチが指揮官をアシストしている。室内練習場はなく“雨が降ったら、練習は休み”。山本監督は「雨が降っていない時に、いかに練習するかが勝負。ただ、なかなか雨が降らない時期があり、気が付いたら、ずっと練習していたということもありました」と苦笑する。
監督は“ミスター赤ヘル”と同姓同名も「父は巨人ファン」
苦学生が多く、部員のほとんどがアルバイトを行っている。「この時期は学校の近くの居酒屋さん、すし屋さん、餃子屋さんなどで週1~2回、シーズンオフの冬には週3~4回働いている部員が多いです。アルバイト先の多くは歴代の部員で受け継がれていて、お陰様でまかない飯をたくさん食べさせてくれますし、シフトも配慮してくれています」と山本監督。「ですから、ウチが今大会で勝ち過ぎると、アルバイトがいなくて大変みたいです」とジョーク混じりに付け加えた。
OBには投手として中日、ソフトバンク、阪神で活躍しNPB通算100勝(79敗)を挙げた中田賢一氏(ソフトバンク投手コーチ)がいるが、「中田投手の在学当時、部員の多くは夜間部の学生で、昼には野球に打ち込める環境がありましたが、今はその夜間部がありません」と語る通り、環境は異なる。
資金も不足気味で「ネットが破れても、なるべく縫ったり、つぎはぎをして使うようにしています」。強豪私立大の環境をうらやましく思うこともあるが、「それを勝てない言い訳にはしたくない。反骨心は大いにあると思います」と指揮官は力を込めるのだった。
その山本監督自身、スポーツ社会学、パラスポーツを専門にする准教授で、「車椅子ソフトボール日本代表監督」の肩書も持つ。野球部員も在籍するゼミでは、車椅子ソフトボールの選手と交流する機会もあり、「障がいを持ちながらプレーしている方々との交流で、刺激を受けている部員もいます」とうなずく。
山本監督は、かつてプロ野球の広島で通算2339安打、536本塁打を放ち“ミスター赤ヘル”の異名を取った名選手と同姓同名だが、「私の名前の由来は、単に次男だったというだけで、野球とは関係ありません。父は巨人ファンですし……」と笑う。
10日の2回戦では、優勝候補の関大と対戦する北九州市立大。異色の指揮官の下、“公立旋風”を巻き起こすのか──。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)