コナー・マクギネス投手コーチ補佐に単独インタビュー
ワールドシリーズ3連覇を目指すドジャースには、異色な経歴のコーチがいる。強力な投手陣を支える36歳のコナー・マクギネス投手コーチ補佐だ。選手としては3部リーグの大学で通算防御率6.75に終わり、プロ経験はゼロ。大学院で修士号を取得し、バーテンダーや芝刈りといった仕事もこなしてきた。そんな男が名門球団で重宝され、スター選手からも信頼を得るに至った経緯を聞いた。
試合前のグラウンドで大谷翔平投手がキャッチボールをしていると、サングラスをかけた猫背の男がゆっくり近くにやってくる。それがマクギネスコーチだ。アナリストで大谷の通訳も務めるウィル・アイアトン氏とともに計測器をチェック。マーク・プライアー投手コーチと並んで、毎日熱心に投手陣の調整を見守っている。
プライアーコーチは怪我の影響で短命に終わったとはいえ、メジャー2年目の2003年に18勝6敗、防御率2.43でサイ・ヤング賞投票3位に入った実績を持つ。一方、その“相棒”であるマクギネスコーチはメジャーはおろかマイナーの経験もない。
「高校生ぐらいの時には、自分がメジャーリーガーになることはないだろうと、かなり現実的に分かっていました」。プロ野球選手の夢は早々に諦めていた。
学力に定評のあるジョージア州エモリー大で野球を続けたが、それも「学位と学歴を得るため」。4年間で通算41試合に登板し、2勝6敗1セーブ。防御率は6.75とNCAA3部のリーグでもパッとしない成績に終わった。
2012年に卒業後は職を転々。「いろんな雑務をやりましたよ。バーテンダー、草刈り、スポーツ代理店で無料の年俸調停……非営利団体でも働きました」。2014年にはエモリー大に戻って投手コーチに就任。2年間後輩を指導した後、ワシントンDCにあるカトリック大の大学院に進学した。そこでも1年半野球部のコーチ補佐をしながら、リーダーシップを専門とした経営学の修士号を取得した。
ドジャースのコーチになった経緯「冗談だと思いました」
選手としては芽が出なかったが、野球に対する情熱は持ち続けていた。「どんな機会でも得られたら、飛びつこう」。2016年、ワシントンDC近郊でMLBのウィンターミーティングが行われた際に、友人に連絡を入れた。現在ツインズでGMを務めているジェレミー・ゾル氏だ。当時ドジャースで選手育成部門のディレクター補佐をしていたゾル氏とは、子どもの頃にバッテリーを組んだ仲だった。
フロントオフィスやアナリストの仕事に就けないか相談したところ、ゾル氏から予想外の提案があった。
「フィールドレベルのコーチにならないか?」
ドジャースが当時抱えていた課題は、先進機器によって取得した膨大なデータの持つ意味を、選手に理解できるように“翻訳”できていない、ということだった。「だから私を招き入れ、データや新しい情報を選手に伝えるための通訳のような役割をさせようというのが彼のアイデアでした」。
MLB球団でコーチをすることなど、考えたこともなかった。「信じられませんでした。冗談だと思いましたよ」。心の底から驚いたが、断る理由はなかった。
2017年からドジャース傘下1Aの投手コーチに就任。着実に評価を高め、2020年には投手コーチ補佐として“メジャー昇格”を果たした。だが、その道のりは決して平坦ではなかった。
選手として実績のないコーチの苦悩「話を聞いてくれないことはもちろんありました」
新人マイナーリーガーでさえも、選手としての実績はマクギネスコーチより上だ。「話を聞いてくれないことはもちろんありました。今でも時々そういうことはあります」。どこの馬の骨とも分からぬ者が信頼を勝ち獲るのは容易ではない。大事にしたのは「時間と誠実さ」だ。
「決してオブラートに包んだり、嘘をついたりすることなく、私たちが見ているものをありのままの真実として伝えます。また個に合わせた指導をとても意識しており、選手によって伝え方を変えています。選手にとって私たちは、自分に最も合うものをフィルターにかけて選ぶための大きなメニューリストのような存在です」
改善点を指摘しつつ、画一的にやるべきことを押し付けることはしない。選手の望みも聴取し、選択肢を提示することを心がける。データ全盛の時代にあっても、決して疎かにしないのは“人間らしさ”だ。
「尊敬と信頼はただ得られるものではなく、勝ち取らなければならないものです。それは時間をかけて育っていくものだと思います。良い登板の後も、悪い登板の後も寄り添ってあげられたか。そういう人間的な関係を維持し、信頼を築いていくのです」
選手の評価「彼の話し方はとても共感しやすいんです」
1人、2人と指導の成果が出てくると、次第に噂が広まり、耳を傾けてくれる選手が増えていった。2021年にドジャースに加入し、ブルペンに欠かせぬ存在に成長したアレックス・ベシア投手はマクギネスコーチの指導の特徴をこう説明する。
「コーチングスタッフからの情報を選手に伝達する能力がとても優れています。彼とのコミュニケーションでは、彼がどう情報を解釈し、僕たちに与えているのか理解できるんです。だから共通の理解を持って臨めるし、彼の話し方はとても共感しやすいんです」
昨年途中にレイズから移籍してきたポール・ガーベイス投手は「コナーは私が今まで出会った中で、最も賢い野球の頭脳を持った1人です」と称える。「投球フォームの細かい点や、狙った通りに球を投げる能力、適切な球の選択やどうすれば的確にある球種を投げられるかを熟知しています。優れたコーチは、必ずしも優れた選手である必要はないと思います」。マクギネスコーチはその象徴的存在だ。
「私の強みはこのあらゆる過程を楽しめることにあると思います。長いシーズン、時に単調で粘り強さが必要になる困難なプロセスも、(コーヒーを)ゆっくりと抽出するように時間をかけて個々の成長を手助けすることも。それが私の優れていることだと思います。あとはやはり、個々の選手をよく知り、彼らが少しでも多く稼げる方法を探してあげることですね」
メジャーのコーチになって6年間で3度のワールドシリーズ制覇。あまりに異例の道のりは「今でも友人の大半は私が今何をしているか理解できていませんよ」と笑うほどだ。データを駆使して投手王国を支える男は、意外なほどに人間味に溢れていた。
(鉾久真大 / Masahiro Muku)