「100%になるまで盗塁はストップ」二刀流・大谷を巡る緊迫の舞台裏
ドジャース・大谷翔平投手が抱える左膝の負傷を巡り、チーム首脳陣が胸の内に抱くリアルな葛藤が浮き彫りになった。打席に立つ姿、そして時に痛々しくダイヤモンドを駆ける姿にファンからも心配の声が上がる中、クリス・ウッドワード一塁コーチがインタビューに応じ、満身創痍の偉才を預かる首脳陣の切実な苦悩を明かした。
大谷は6月11日(日本時間12日)の敵地・パイレーツ戦で左膝の炎症で途中交代。ウッドワードコーチによると、通常のベースランニングは問題なくこなせるものの、足への負担が極めて大きい「盗塁」に関しては、チームとして急ブレーキをかけているのが現状だという。
「彼の健康を維持することが最優先だ。オールスター休みが明けたら、彼にはピッチング(二刀流復活)をしてもらう必要がある。だから、いま無理をして怪我を悪化させるわけにはいかないんだ。彼には『君が100%になるまでは、(盗塁などは)ストップする』と伝えてあるよ」
チームの至宝であり、ワールドシリーズ3連覇の鍵を握る男だ。それだけに、グラウンド上での一挙手一投足に首脳陣は肝を冷やしている。スライディングの瞬間、送球を避けようとした拍子にさらに悪化させるのではないか――。ウッドワードコーチは常にハラハラとした苦悩と戦っている。
「彼がスライディングする度に、『頼むから危険な目に遭わないでくれ。おかしなスライディングはしないでくれ、スムーズなスライディングをしてくれ』と願うような気持ちさ。きれいなスライディングであれば問題はないと思う。ただ、ボールが送球されてきて、それを避けようとした時に怪我をしてしまうようなことはあるかもしれないからね」
周囲の心配をよそに、当の大谷はどこまでもタフだ。「今日の調子はどうか」と首脳陣が聞いても、返ってくるのは短い言葉だけだという。
「彼は自分から多くを語るわけではないからね。『おい、今日の調子はどうだい?』と聞く感じさ。そうすると、彼は『大丈夫、問題ないよ』『体調は良いよ』とだけ言うんだ。細かい詳細までは教えてくれないんだよ。とにかく、彼自身がまた自分を痛めつけるようなことにならないようにしたいだけさ」
痛みを抱えながらも、なぜ大谷はこれほどまでに己を追い込み、走り続けるのか。その裏には、ドジャースという常勝軍団のDNA、付きまとう故障のリスク、そして世界一への真剣勝負となる10月のポストシーズンを見据えた首脳陣との知られざる約束があった。
弱音を吐かない異次元の精神力、ウッドワードが驚嘆した「真のタフネス」
ウッドワードコーチが最も舌を巻くのは、大谷の精神力だ。常に100%の状態でいられるわけではないメジャーの過酷なシーズン。その中で大谷が痛みを引きずりながらも全力でダイヤモンドを回る姿は、単なる個人の意地に留まらない。
「怪我がない状態であっても、投打の二刀流をこなして、あれだけのパフォーマンスを維持すること自体、異次元のメンタルが必要なんだ。彼は毎日、本当に多くのやるべきことを抱えている。それに加えてメディアの対応もあるし、他にも対処しなければならないことがたくさんあるわけだからね。だから、彼が精神的にめちゃくちゃタフなのは明らかだよ」
なぜ、大谷は痛みを抱えながらも走り、戦い続けるのか。その真意は、ドジャースというチームが持つ「不屈のDNA」をさらに強固なものにするためでもある。チームには、満身創痍でシーズンを戦い抜いたベテランたちが揃っているからだ。
「毎日試合に出続けるレギュラー選手であるためには、常に100%の状態でいられるわけではないんだ。フレディ(・フリーマン)もここ2年ほど、基本的には足首が悪い状態でプレーしながら、毎日試合に出ていた。ウィル・スミスも数年前、腰や足首を痛めながら、ほぼシーズンを通してプレーしていた。ショウヘイは今、自分がそのタフさを持っていることをみんなに証明しているんだ。100%ではない彼が必死に走る姿は、間違いなく他の選手たちのモチベーションになっているよ」
大谷が指名打者という役割だからこそ、出場を続けられている側面はある。もし守備に就く野手であれば、最悪の場合は負傷者リスト入りを余儀なくされていたかもしれない。
「もし中堅を守っていたりしたらプレーできなかったかもしれない。でも、彼は打撃をしている。やるべきことが打撃だけであれば、ベースを走る時に少しセーブしながら走ることもできるからね。守備となると、ボールを落とすわけにはいかないから大変だ。もし遊撃を守っていて膝が悪かったら、チームにとって痛手になってしまう。だから、彼がDHであるという事実は、とても助かっているよ」
大谷は前半戦最終戦となった12日(同13日)の試合後に患部に溜まった水を抜き、注射を打つなどの治療を受けたが、全てがうまくいくとは限らない。首脳陣にとって最大のジレンマは、左膝が後半戦の二刀流復活にどう影響するかという点だ。
チームの最終目標はあくまでポストシーズンでの世界一。そのため、大谷の「走りたい」という本能にブレーキをかけ、膝の体力を温存させるという極めて繊細な舵取りを強いられている。
偉才が放つ無言のメッセージに鼓舞されるチームと、その限界点を見極めようと目を光らせる首脳陣。ポストシーズンを見据え、大谷をいかに守り、いかにその力を引き出すか。ドジャース首脳陣の「贅沢で切実な苦悩」の闘いは、ここからが本番だ。
(小谷真弥 / Masaya Kotani)