日常の対話と「痛みの耐性」 走塁コーチが見る大谷のタフさ
ドジャース・大谷翔平投手は、左膝に違和感を抱えながら打者として出場を続ける苦闘のシーズンを過ごしている。前半戦最終戦後には患部に注射治療したものの、28日(日本時間29日)の取材対応では「痛みがゼロになるっていうことは、ドクターとの話し合いでもないのかな」と胸中を吐露。さらに、投手復帰に向けたブルペン入りを回避したことについても、「100%なら進むけれど、90数%でも残りの数%の違和感があるなら休む」と、もどかしい現状を明かした。
「100%ではない」と自覚しながら戦い続ける大谷をベンチやコーチャーズボックスから支えるのが、ディノ・イーベル三塁コーチだ。両者は現場でどのような言葉を交わし、互いをどう理解し合っているのだろうか。現場の証言から、2人のリアルな関係性とドジャースが抱える葛藤を紐解いた。
試合前、イーベルコーチが大谷にかける最初の言葉は決まっている。
「足の調子はどうか」
グラウンドに立つ前の短いやり取り。そこから試合が始まれば、2人は野球の話、相手投手のアプローチ、あるいはその場その場の状況判断について常にコミュニケーションを取っている。イーベルコーチは「彼はチームプレーヤーとしても選手としても本当に素晴らしく、毎日より良くなろうと努力している」と目を細める。
しかし、走塁の現場では現実的な判断が突きつけられる。24日(同25日)の敵地・メッツ戦で大谷が右翼線への一打で三塁を狙って憤死した場面。周囲からは「膝の影響があったのではないか」と懸念の声が上がったが、イーベルコーチの見解は違っていた。
「ショウヘイ自身から『膝が原因だ』とは聞いていません。もちろん膝に問題を抱えているのは知っていますが、あのプレーは単に積極的に行った結果です。彼がボールの位置を見て『いける』と判断し、相手が良い返球をしてアウトになった。プレー後に状態を聞いたら『大丈夫』と言っていました」
現在の大谷の走塁について、イーベルコーチは「状況に応じた判断」をしていると分析する。二塁打を狙う時や内野安打で勝負する時には力を注ぎ、確実にアウトになると分かっている場面では無駄な負荷をかけない。自らの体と対話しながら、限界を見極めてプレーしている。
「ショウヘイは本当にタフな選手です。かなりの痛みに耐えながらプレーできるので、彼の『痛みの耐性』は普通の選手よりも高いのかもしれません。そんな彼が『大丈夫』と言うなら、私は彼を信頼します」
イーベルコーチ「彼が大丈夫と言う以上、心配はしていない」
大谷本人が語った「痛みがゼロになることはない」「90数%でも残りの数%の違和感があるなら休む」という言葉。これは単なる慎重姿勢ではなく、大谷が自身の体と引き換えに打者として出場し続けている現実を物語っている。
イーベルコーチは「トレーナーやショウヘイと毎日コミュニケーションを取っている。彼が大丈夫と言う以上、心配はしていない」と表面上は全幅の信頼を口にする。だが、メジャーの最前線で選手を見続けてきた指導者として、その裏には複雑なグラデーションが存在する。
「もし本当に深刻で、医師やトレーナーから『10日〜15日は休むべきだ』と言われれば考慮するでしょう」
この言葉は、裏を返せば「ドクターストップがかからない限り、大谷は自分から休みたがらない」ということをコーチ陣も痛感している証拠だ。大谷の「痛みの耐性」があまりにも高すぎるがゆえに、周囲が「どれほどの痛みなのか」を完全に把握することは不可能に近い。本人が「大丈夫」と言えば、チームはスタメンに送り出すしかないのだ。
大谷は膝の影響で投手としての調整を回避したが、打者としては、その「90数%」の状態で毎日グラウンドに立ち、激しい走塁をこなしている。
走塁時に二塁や三塁のコーナーを鋭くターンする瞬間、左膝には自重の数倍の負荷がかかる。イーベルコーチは「コーナーを曲がる際も問題ないと言っている」と強調するが、大谷が「100%ではない」と認めている以上、いつその「数%の違和感」が決定的な破綻に繋がるかは誰にも予測できない。
完全復活への道筋が見えないまま、90数%の体で走り続ける二刀流。三塁コーチャーズボックスのイーベルコーチは今も、大谷がコーナーを蹴って加速するその一瞬を、祈るような視線で見つめている。
(小谷真弥 / Masaya Kotani)