「痛みを抱えてのプレーはタフ」 162試合の過密日程と戦う選手のリアル
ドジャースの大谷翔平投手は7月30日(日本時間31日)、左膝の痛みを訴え、本拠地・マリナーズ戦の先発メンバーから外れた。投打の二刀流で躍動してきた背番号17の異変は、球団やファンに大きな衝撃を与えている。かつて自身も左膝の故障を経験した元同僚ジェイソン・ヘイワード氏(現ドジャース特別補佐)が取材に応じ、過密日程の中で痛みを抱えてプレーする過酷さと、大谷が選択すべき「戦略的休養」の重要性について語った。
「どんな痛みであれ、それを抱えながらプレーし続けるのは本当にタフなことだ」
ヘイワード氏は開口一番、過酷なメジャーリーグの現場で戦う選手たちの実情を口にした。162試合の長丁場のシーズンの中で、選手は多かれ少なかれ怪我と隣り合わせで戦っている。しかし、二刀流として規格外の負担を背負う大谷にとって、足腰のトラブルはプレーの根幹を揺るがす問題だ。
ヘイワード氏は「特にショウヘイのように、ピッチング、バッティング、ベースランニングの全てを高いレベルでこなす選手にとってはなおさらだ」と指摘。その上で、今のチーム状況やシーズンにおける立ち位置を冷静に見極める重要性を強調した。
「今休ませるチャンスがあるなら、それは賢い判断だ。ショウヘイに一度息抜きをさせ、膝を休ませて治療に専念させる。チーム全体でそうした共通認識を持つことが何より重要になる」
無闇に強行出場を続けるのではなく、「今、あえて休む」という決断こそが、シーズン終盤に向けた最善のチーム貢献になるという見解だ。
解剖学的に見る「左膝」が二刀流に与える致命的リスク
ヘイワード氏が「休養」を強く促す背景には、野球の動作における「左膝」という部位の極めて重要な役割がある。右投げ左打ちの大谷にとって、左膝は打撃と投球の両方で「力の発生源」となる要の部位だ。
左打者にとって左膝は、スイング始動時に体重を深く乗せ、パワーを蓄える「軸足」となる。左膝に痛みや力が入らない状態では、外角球へのアプローチで踏み込みが甘くなり、本来の長打力を発揮することが難しくなる。また、走塁時の加速やベース周りの旋回でも鋭い減速・加速運動が求められるため、膝への負荷は極めて大きい。
投手としてマウンドに立つ際、左膝はリリース時に全身の体重を受け止める「踏み込み足」となる。投球時には体重の数倍に及ぶ衝撃が下半身にかかるため、着地足に不安があるとフォームの再現性が崩れ、肘や肩など他の部位への二次的な怪我につながるリスクが急増する。
ヘイワード氏自身も膝の故障時には、打撃時のタメや守備・走塁での切り替え動作に苦しんだ経験を持つ。二刀流の根幹を支える部位だからこそ、軽微な違和感の段階で処置することが不可欠なのだ。「膝の怪我で引退に追い込まれる選手もいる中、大谷は100%の状態で完全復活できるか」という問いに対し、ヘイワード氏は慎重かつ誠実な姿勢を崩さなかった。
「それに関しては、誰にも決定的な答えは出せない。どれほど深刻なのかはショウヘイ本人や医療陣にしか分からないからだ。大切なのは『一日一日』を積み重ねることだ」
周囲が「二刀流の未来」や「完全復活の可否」について議論を交わすことに対し、ヘイワード氏は一線を画す。過度なプレッシャーや先走った観測を遮断することこそが、リハビリに挑む選手への最大の敬意であると知っているからだ。
「ショウヘイはここ10年間、この球界の誰よりも多くの試合に出続け、誰よりもハードに働いて結果を残してきた。その実績と献身を誰もが尊重している。だからこそ今は息抜きをして治療に専念できる時間を与えるべきなんだ」
ヘイワード氏は2010年にブレーブスでメジャーデビューし、2025年までの16年間で通算1824試合に出場。オールスター戦に選出され、5度のゴールドグラブ賞を受賞した実力者だ。
取材の最後、ゴールドグラブ賞の誇りあるグラブを手に笑顔を見せたヘイワード氏の姿には、過酷な勝負の世界を生き抜いてきたベテランならではの誇りと、同僚への深い思いやりが満ちていた。
大谷翔平という偉大なアスリートが再び本来の輝きを取り戻すため――。今必要なのは、周囲の焦りではなく、静かに見守る時間と「休む勇気」なのかもしれない。
(小谷真弥 / Masaya Kotani)