甲子園が“敵”に「初めての経験」 勝利まで1死…崩れた2年生右腕、のまれた“完全アウェー”

一時は3点リードも…2番手・坂本が9回まさか
異様なムードにのみ込まれた。第108回全国高校野球選手権は大会第3日の7日、甲子園球場で1回戦4試合が行われ、第3試合は3年ぶり5度目の出場となった立命館宇治(京都)が有明(熊本)と対戦。最大3点をリードしながら9回2死から逆転を許して敗れた。地元・関西での試合にもかかわらず、試合途中から球場全体が有明を応援するような雰囲気にのまれた。
甲子園の観客は時として、“弱者”を後押しすることがある。判官びいきとも呼ばれる心境から、苦しい立場のチームを応援する。今年7月28日、九州地方を襲った令和8年熊本地震。被災地を勇気づけようと奮闘する熊本代表の有明ナインに対する声援は、回を追うごとに大きくなっていった。
立命館宇治の里井祥吾監督は「前半や中盤までは、全体的に凄く応援していただいていると感じていました。ベストゲームというか、お互いしっかり応援し合ってナイスゲームでした」と回顧。関西の高校だけに一塁側アルプス席の応援人数は三塁側を上回り、3回の先制点、6回の追加点の際には大歓声でナインを称えていた。
だが、有明が7回に反撃。2点を返して1点差に詰め寄ると、雲行きが変わってくる。終盤にかけて徐々に、一塁側アルプスを除く球場全体から有明の逆転を期待するような拍手や声援が増えだしたのである。里井監督は「野球ファンが野球を楽しんでいる雰囲気でした」と努めて冷静に振り返ったが、グラウンドでプレーしている高校生には厳しい状況が襲いかかっていた。
3-2と1点リードの8回から2番手で登板した右横手投げの2年生の坂本有央投手は、8回は3者凡退で無失点。だが9回1死、打ち取った打球が遊失となって同点の走者が出ると、有明を応援する声がさらに高まってきたのを肌で感じた。「最後の回は向こうを応援する雰囲気にのみ込まれてしまって、自分のコントロールを出せなくなってしまいました」。武器の一つである制球力に狂いが生じたのである。

あと1人で勝利から暗転「雰囲気が全然違いました」
1死一塁から暴投で走者が二塁へ進塁。2死までこぎ着けたが連続四球で満塁とピンチを広げた。迎えたのは7回に2点打を放っている永田晴輝内野手。「永田選手は相手で一番警戒していたんですけど、四球を出して回してしまったのがダメでした。内角を狙った球が真ん中に入って打たれました」。勝利まであと1人と迫りながら、逆転の走者一掃の3点二塁打を喫した。
「ここまでの凄い応援は初めての経験でした。8回と9回では雰囲気が全然違いました。相手を応援する圧が凄くてプレッシャーになりました。ストライクが入らなくなって、甘いコースにいった球を一発で仕留められてしまいました。自分の持ち味であるコントロールが発揮できなかったです。3年生には本当に申し訳ない気持ちでいっぱいです」
号泣しながら必死にコメントを絞り出した2年生右腕。甲子園からそれほど離れていない京都代表で、本来ならホームとも言える状況のはずが、相手への声援がすさまじい状況になり「後半はそうなるかもしれないと思っていたけど、予想以上でした。アウェーのような雰囲気になるのは分かっていたけど、想像以上でした」と振り返る。勝利目前で“甲子園の魔物”に襲われたのは不運としか言いようがない。
先発して7回2失点と粘った背番号1の右腕・中尾理佑投手も2年生。リベンジのチャンスは残っており「坂本とお互いにあと2回チャンスがある。頑張って甲子園に戻ってきたい」と前を向く。坂本も「この悔しさを糧に、春と夏にまた甲子園に帰ってきたい」と雪辱を誓う。
「最後、勝ちきれなかったのは自分の弱さ。ああいう場面でもしっかり抑えられるように、もっと練習して頑張りたい。切り替えて、必ず甲子園に戻ってきたい」。高校2年生には、あまりにも酷すぎる経験。だが、それも無駄にはならない。一回り成長した姿を、きっと見せてくれるに違いない。
(尾辻剛 / Go Otsuji)