有明の快進撃は「汚い走り」から始まった 県初戦敗退→九州王者…4年後に甲子園8強

「ウチの選手って走り方が汚いやつが多いよね」が出発点
第108回全国高校野球選手権大会で、春夏を通じて初の甲子園出場ながら、劇的な3試合連続逆転勝ちでベスト8入りを果たした有明(熊本)。18日の準々決勝では健大高崎(群馬)に延長10回タイブレークの末、0-1でサヨナラ負けを喫したが、“ミラクル快進撃”は7月の熊本地震の被災者を勇気づけた。躍進の背景には、2022年の秋から取り組んできた「スプリント能力」の向上がある。
有明の最強の武器は“足”だった。
今大会4試合でチーム11盗塁をマーク。1番を打つ永田晴輝内野手(3年)は、打率.353(17打数6安打)の打棒を振るった上、1人で5盗塁の韋駄天ぶりだった。特に東日大昌平(福島)との3回戦で、1点ビハインドの8回に、1死から永田がバント安打で出塁し、その後三盗を決めて逆転劇の端緒を開いたのは圧巻だった。
永田のみならず、有明は俊足ぞろいだ。スプリント能力アップに大きな役割を果たしてきたのが、西連一郎コーチ(スプリント兼打撃担当)である。
全国8強入りを果たした有明だが、4年前の2022年には、秋季熊本大会で初戦敗退を喫している。期待された代の新チーム結成後最初の大会だっただけに、衝撃は大きかった。当時就任2年目だった西コーチは、高見一茂監督との間で「ウチの選手って、走り方が汚いやつが多いよね」と共通認識を持ち、スプリント能力の向上に乗り出した。
まずは、西コーチの大学時代の同級生のインストラクターを新潟から呼び、チーム全員で2日間にわたり走り方を教わった。西コーチは「新潟から熊本まで頻繁に来てもらうわけにはいかないので、僕がこの2日間で自分の頭に叩き込み、あとは独学で理論を組み立ててきました」と振り返る。
座学でどうしたら速く走れるかを考えることから始め、ウエートトレーニング担当のコーチらとも連携し、理想的なフォームや効果的なトレーニング法を追求し、実践していった。ぐんぐん伸びていたタイムが、頭打ちになる時期も必ず来るが、そういう時には選手と膝を詰めて原因を追究した。

「実は50メートル走よりも30メートル走のタイムを重視している」理由
効果が表れたのは早かった。2022年9月の秋季熊本大会で初戦敗退したチームが、7か月後の翌2023年4月には春季熊本大会で優勝。さらに九州大会も制して、“九州王者”となった。大分舞鶴に16-3で大勝した九州大会決勝では、チーム6盗塁と走りまくった。驚異の急成長に、九州の関係者、メディアは目を見張ったものだ。今大会の全国8強入りも、この延長線上にある。
チームNo.1の俊足を誇る永田は、入学当時の50メートル走のタイムが6秒4だったが、いまや5秒8。「今年の春先からタイムが伸びて自信がつき、盗塁で刺されることがほとんどなくなりました」と手応えを感じていた。
西コーチは「実は、私たちは50メートル走よりも30メートル走のタイムを重視しています。野球の塁間(27.431メートル)に近いですし、一気に加速することを求められますから」と明かす。「永田の30メートル走のタイムは3秒80。これはスプリントのトレーニングを積んでいなければ出ないタイムで、おそらく今大会出場選手の中でも一番速いと思います」と称える。
スプリント能力は決して天性だけではなく、理論を学び、適切なトレーニングを重ねることで速くなれる、という考え方が根本にある。
また、西コーチは「スプリント能力が上がると、それを土台にして、ボールを投げる球速、打球速度なども上がっていきます」とも。だからこそ、西コーチがスプリント担当と打撃担当を兼務していることにも意味がある。
“スプリント改革”で県大会初戦敗退から九州王者に駆け上がり、とうとう全国8強の座を射止めた有明。これからどんなチームになっていくのかが楽しみだ。“旋風”はまだ終わっていない。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)