21歳が発揮する異次元のメンタル
メジャーリーグの名門ドジャース。そうそうたるスーパースターが名を連ねるベンチの中で、物怖じすることなく異彩を放つ若き大砲がいる。21歳のホスエ・デポーラ外野手だ。
ドジャースの厚い選手層にあって、ファンやメディアから「大谷翔平の代役」「将来の主砲候補」として熱い視線を注がれている逸材だ。しかし、周囲の過熱するフィーバーを前にしても、本人の表情はどこまでも冷静そのものだ。
「オオタニの代役? プレッシャー? いや、全く感じていないよ」
屈託のない笑みを浮かべながら、デポーラは語り始める。
「ただ、チームの勝利を助けるためにここにいるんだ。メジャーの舞台だろうが、打席に立ってグラウンドに出れば同じ野球だからね。場所や対戦相手が変わるだけで、ベースボールの本質は変わらない。自分がこれまで何年もやってきたことを、そのままグラウンドで発揮するだけさ」
異次元のメンタルを持つデポーラだが、そのキャリアの歩みは非常に異色だ。
生まれはアメリカ・ニューヨーク。しかし、野球人生を決定づけたのは2020年、世界中を襲った新型コロナウイルスの感染拡大だった。当時、ニューヨークの学校はすべて閉鎖され、若者たちが野球をする環境も完全に奪われてしまった。
「学校にも行けず、何もできない日々が続いていたんだ。でも、ドミニカ共和国ではまだ野球ができる環境が残っていた。だから『よし、向こうへ行こう』と決めた。練習を止めたくなかったからね」
当時15歳ほどだった少年が、単身ドミニカ共和国へ渡るという大きな決断を下した。ニューヨークの都会的な暮らしから一転、言語も文化も異なる環境への移住は、大きなカルチャーショックを伴ったという。
「人々、言葉、生活習慣……全てが違っていて、まるで新しい世界に入り込んだようだった。でも時間とともに慣れていったし、あの選択があったからこそ今の自分がある」
逆境の中で培われた圧倒的なタフネスと行動力。それこそが、現在の堂々たるプレーの根幹を形作っている。
「彼は宇宙人だよ」間近で見た大谷翔平の凄み
ドジャースという常勝軍団に加わったデポーラにとって、現在の環境は刺激に満ちあふれている。特に、同じチームでプレーする「大谷翔平」という存在は、若き大砲に強烈なインパクトを与えた。
大谷について尋ねると、デポーラは即答した。
「彼はまさに『宇宙人』だよ。彼が達成しているプレーは、僕たちが生きている間には二度と見られないような次元のものばかりだ。選手としても、一人の人間としても本当に素晴らしい存在だよ」
スプリングトレーニング期間中、デポーラには密かな「日課」があった。大谷がバッティングケージに入って打ち込みを始めると、すかさずすぐ後ろの特等席に陣取るのだ。
「彼がケージで打つたびに、後ろに座ってじっと作業を見ていたんだ。ボールを捉える音、打球の強さ、そして練習に向き合う姿勢……。見ているだけで本当に目が覚めるかのような衝撃を受けた。言葉を交わさなくても、彼の取り組みを見るだけで学べる環境があるのは本当に幸運なことだよ」
大谷との会話はまだ「挨拶を交わす程度」だというが、同じ空間でその息遣いを感じるだけで、若き逸材の吸収力は加速している。
日本人選手から学んだ「意外な日本語」とチームの絆
インタビューの終盤、少し砕けた話題になると、デポーラはいたずらっぽい笑顔を見せた。大谷だけでなく、ドジャースに所属する他の日本人選手たちとの距離も着実に縮まっているようだ。
「そういえば、日本人選手から日本語を教えてもらったんだよ」
誇らしげに明かしたデポーラ。一体どんな言葉を教えてもらったのか尋ねてみると――。
「『オハヨウ』だよ! ロウキ(佐々木朗希)やヤマモト(山本由伸)が教えてくれて、いくつか言葉を覚えているんだ。最初に覚えたのが『オハヨウ』だ。今のところ覚えたのは、その一語だけだけどね(笑)」
グラウンド上では圧倒的なプレーを見せる若き大砲だが、ベンチ裏では日本人投手たちと笑顔でコミュニケーションを取り合い、異文化を柔軟に受け入れている。その愛くるしい素顔と順応の早さもまた、彼がチーム内で愛される理由の一つだ。
今シーズンの残りの目標を尋ねると、デポーラは再び真剣な眼差しに戻り、力強く言い切った。
「目標は勝つこと。それだけだ。ベテラン選手たちから吸収できるものは全て吸収して、最終的には全員でワールドシリーズのチャンピオンリングを手に入れる。それ以外に興味はないよ」
大谷翔平という偉大な背中を追いかけながら、自らの足で新たな歴史を刻み始めたデポーラ。規格外の21歳が描く未来図から、しばらく目が離せそうにない。
(小谷真弥 / Masaya Kotani)