ノーノーを阻んだ日本通運・諸見里の一発 背景に“打順降格”を生かした思考

都市対抗野球初戦のJR東海戦で一矢報いる本塁打を放った日本通運・諸見里匠【写真・中谷純一】
都市対抗野球初戦のJR東海戦で一矢報いる本塁打を放った日本通運・諸見里匠【写真・中谷純一】

大学時代はドラフト候補も指名漏れ 今は社会人野球に全力投球で充実

 第90回都市対抗野球が13日に開幕し、東京ドームでは2試合、熱戦が繰り広げられた。第2試合ではJR東海(名古屋市)と日本通運(さいたま市)が対戦。JR東海が戸田公星投手の8回2死まで無安打投球の好投などで、2-1で勝利した。戸田投手の投球は圧巻だったが、それを阻止した日本通運・諸見里匠内野手の左中間本塁打も見事。自身初の都市対抗野球での一発の背景に迫った。そこには8番降格の悔しさをプラスに変えた、諸見里の思考があった。

 三塁側スタンドからの大歓声で諸見里は本塁打と確信した。2点を追う8回2死。場内はJR東海・戸田のノーヒットノーラン達成への期待が膨らみ始めていた。カウント2ボール1ストライク。高めに浮いたフォークを逃さずフルスイングすると、打球は左中間席へ。偉業の夢を打ち砕く本塁打だった。

「フォークがいい投手だったので、低めは我慢。でも真っすぐや(変化球が)高めに来たら狙って行こうと決めていました」

 戸田のフォークに他の打者は手を焼いていた。真っすぐの軌道で鋭く変化する球に翻弄され、毎回の13三振。しかし、諸見里は「調子が良かったのでボールが見えていた」と軌道の見極めができていた。

 南関東予選から状態が上がらず、普段は中軸も予選以降は8番でスタメン。予選の時は積極性が売りの諸見里は打ち気ばかりが走り、来た球にくらいついているだけだった。それが不振の原因と突き止めた。8番になったことで、1~7番打者の配球をベンチやネクストバッターズサークルで分析し、狙い球を絞った。前の2打席でもボールをしっかりとらえた外野フライ。この日はどの打者よりもタイミングが合っていた。打順が降格していなかったら、気付けなかったかもしれない。

 公式戦2本目、都市対抗野球では記念すべき初本塁打。しかし、空砲に終わった。日本一を目指した戦いだったが、惜しくも初戦で姿を消した。

 9回、諸見里は最後の打者がアウトになるまでベンチで祈るように試合を見つめていた。

「悔しさしかないです。本塁打を打っても負けたら意味がありませんから。1人の力では勝てないので皆でまた力を合わせて日本選手権などに向かって戦っていきたいです」

 個人の感情は全くなく、勝てなかったチームへの思いが上回った。沖縄尚学、国学院大で主将を務めてきた選手だからこそ、敗戦の責任を背負っていた。大学時代はドラフト候補も指名漏れを経験。今秋のドラフトでも候補として名前は挙がるが、プロ入りへの過度な期待はしていない。今は社会人野球に全力投球中。ひとつでも多く白星を応援してくれている会社へ届けたかった。打球にひと押しをくれたスタンドからの大歓声は忘れない。

 自分の状態を見極めて、しっかりとした読みから打つことができた本塁打。それもノーヒットノーラン寸前だった好投手からの一発。チームを最優先する諸見里にとっては悔しいが、打撃技術の成長があった非常に価値のある打席だった。

【動画】ノーノーを阻止した日本通運・諸見里 普段の練習の様子と都市対抗前のインタビュー

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