ヤクルト斎藤投手コーチが選手を“規制”しないワケ 「自分で感じ、考える力を」
就任1年目の浦添キャンプ、投手陣の練習方法に規制をかけず
ヤクルト浦添キャンプには今季、9人の新加入選手が参加している。そしてもう1人、今季から新たに加わったのが、斎藤隆1軍投手コーチだ。横浜(現DeNA)を経て、メジャーでも活躍した元右腕。楽天でプレーした2015年を最後に現役を退くと、米パドレスのフロントオフィスに加わり、球団経営や選手育成などを学んだ。そして、今季からヤクルトを率いる高津臣吾監督に請われ、投手コーチとしてユニホームを着ている。
コーチとして初めて過ごす春キャンプ。斎藤コーチの基本姿勢は「観察・見守る」だ。投手たちに向かってあれやこれやと指示する姿はない。それぞれの投手がウォーミングアップする様子、キャッチボールする様子、ブルペンで投げる様子を、ノックバットを片手に持ちながら観察。無言の威圧感を出すわけでもなく、投手たちが心地よく練習できる空間を生み出しながら、投手1人1人をより深く理解できるように見守る。
1軍キャンプに参加する投手には、ブルペンで投げる球数を決めたり、トレーニング方法を決めたり、規制をかけることはない。自分の投げたいだけ投げさせ、やりたいトレーニングをやらせる。一見、放任主義とも思えるコーチングだが、その裏には密かな思いが隠されている。
「試合中、マウンド上には自分1人しかいない。コーチはもちろん、誰も助けてくれないから、自分で考える力だったり、乗り越える力だったりが必要になってくる。だから、普段から言われた練習をするのではなく、自分に何が必要かを考えて練習する習慣を付けてほしいと思っています。もちろん、アドバイスを求められればするし、明らかに間違った方へ向かっているようだったら『大丈夫か?』と声はかけます。でも、プロになったのは才能ある選手ばかり。細かい技術指導をするよりも、才能を発揮できる環境を整えることがコーチの役割だと思います」
考える力を養う意味でも、特に心に留めておいてほしいことがあるという。それは「シーズン中に100%の状態で投げられることは1度か2度しかない」ということだ。
「投手が100%の状態で投げられることは滅多にない。ほとんどの登板で自分の状態が80%だったり、50%だったり、40%だったりという中で、現状で最大限のピッチングができる方法を見つけたり、努力をしてほしいですね。本調子ではなくても試合を作れたり、打者を抑えられれば、それが自分の実力を底上げすることにも繋がる。マウンドに上がって、その日の状態が良くなかった時に、どうすればいいのか。それを考える力、そして考えた結果、身に付けた引き出しを増やしていってほしいと思います」
ブルペンで投球練習をしながら、納得がいかない様子で首をひねる選手を見掛けると、「意図していることは伝わってくるぞ。もう1回やってみよう」と声を掛ける斎藤コーチ。「とてもじゃないけど偉そうなことは言えない」と謙遜する新米コーチだが、寄り添いながらも厳しさを求めるコーチングにヤクルト投手陣が何を感じるのか。選手、コーチがともに試されるシーズンとなりそうだ。
(佐藤直子 / Naoko Sato)