「打撃の神様」川上哲治さんが残した言葉
「ボールが止まって見える」
10月28日に93歳でこの世を去った川上哲治さんのお別れ会が今日12月2日に都内で行われる。
1965年から1973年まで9年連続日本一を達成した巨人の監督。川上さんはV9の中心にいた。今年、ジャイアンツはそれ以来となる日本一連覇を目標に戦ったが、寸前のところで手が届いていない。勝ち続けることの難しさとともに当時の偉業が改めて浮き彫りとなった。
現役時代は「投手で4番」という離れ業も演じた。56年にはプロ初の2000本安打を記録。しかも、1646試合目で2000本安打に到達するという速さだった。日米通算でイチローに記録を破られたが、日本プロ野球では依然として最速記録の歴代1位に位置する。引退するまで首位打者は5度、本塁打王2度、打点王3度。通算打率3割1分3厘、本塁打181本、1319打点と堂々たる成績を残した。
若い世代にはなかなかピンと来ないような雲の上の存在だろう。王、長嶋のONコンビを始めとするスター選手を束ねることのできた名監督。中日の落合GMも、川上さんから打撃の影響を大きく受けた。常識にとらわれない打撃から、落合氏の神主打法は生まれている。
印象に残る名言も多々残した。たとえば、「ボールが止まって見える」。
打撃が振るわず、不振から脱出しようと来る日も来る日もスイングを繰り返し、ボールをたくさん打っていた。それがあるとき、タイミングをつかむと、どんな球種でも自分のインパクトの瞬間に、ボールがピタッと止まるような感覚を覚えたという。ボールを打ちにいかず、自分の手元までギリギリまで引き寄せて、一瞬でとらえる。このタイミングが、大量のヒットを重ねるきっかけとなり、その言葉が生まれたとされている。あまりにも鋭い打球は「弾丸ライナー」と命名されたほど。後に「打撃の神様」と称され、今も語り継がれている。
そして、選手だけでなく、どの人たちにも響く言葉は、「無駄になる努力はない」だろう。「努力していると思っているうちは本当の努力ではない。その意識が消えたときが本当の努力」。人よりも遥かに努力を重ねてきた川上さんだからこその言葉だろう。無心になった瞬間こそが、人が力を発揮するときであり、努力のない人間に成長はない。野球選手でなくとも、胸に染み入る言葉である。
野球界の発展の裏には、川上さんの尽力が大きく影響している。野球を愛するすべての人たちが、感謝の気持ちを胸に、故人を送り出すことだろう。
【了】
フルカウント編集部●文 text by Full-Count