自ら“引退”選んだ秋の4番 コロナ禍でも絶えることない名門・広陵の伝統

昨秋広島大会では4番を務めた江村智弥外野手
昨秋広島大会では4番を務めた江村智弥外野手

夏の大会前には多くの控え部員が自ら“引退”を宣言し、裏方仕事に専念する

 現広島の野村祐輔投手、現巨人の小林誠司捕手を輩出し、春夏通算47回の甲子園出場を誇る全国屈指の名門・広陵。来るもの拒まずの姿勢で近年は部員数を大幅に増やしており、今年は3年生44人、2年生57人、1年生50人の総勢151人という大所帯で代替大会に挑んでいる。

 今大会は試合ごとに登録選手の入れ替え制度があるとはいえ、例年試合に出場できるのはわずか一握り。そんな広陵では、夏の大会前に控え部員自ら選手引退を宣言し、裏方に志願する伝統がある。昨秋広島大会では4番を務めた江村智弥外野手(3年)もその一人だ。打撃面に穴が見つかり、いい投手になるとスライダーに手が出ない。チームの勝利を最優先に考えたとき、自分の役割はグラウンド外にあった。

「すごい葛藤があったし、引退したくない、まだできるという気持ちもあった。同級生やコーチからは『お前は可能性がある。まだあきらめるな!』とも励まされた。でも、たとえ代替大会でも広陵は勝ち続けなくてはいけない。最後は自分で決断しました」

 声量はチーム内でも随一。秋まで主戦で試合に出ていたこともあり、試合中の的確な声かけはこれまで何度もチームを救ってきた。だが、今大会は感染予防の観点からスタンドでは大声を出しての応援は禁じられている。自ら裏方に回った選手のことを誰よりも気にかける中井監督は、初戦の市立呉戦で江村に背番号18を与え、サプライズでベンチ入り。江村はベンチから実戦的な指示出しを行い、その役割をまっとうした。

 一見酷にも映る伝統だが、「一人一役、全員主役」の精神で淡々と与えられた役割をこなす広陵の控え部員たち。広陵の伝統については、フジテレビ系「S-PARK」のドキュメンタリー企画「2020夏 これが、僕らの甲子園」(9日放送)でも、同じくメンバー入りを拒否して応援団長に立候補した後藤奨貴選手の「最後の夏」を追っている。「自分で自分に区切りをつけたかった。自分たちの代が終わっても、広陵の歴史はこの先も続く。今年でその伝統を止めるわけにはいかない」と江村。“宣言引退”の伝統はコロナ禍でも絶えることなく、次の世代へと受け継がれている。

(佐藤佑輔 / Yusuke Sato)

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