楽天のサクセスストーリーの中心にいる「嶋基宏」という男
今季大きく変化した「リードの質」
そして、その裏では徹底的にリードの研究を続けた。本拠地での試合後、クラブハウスから出てくるのは決まって最後の方。入団当時から嶋を見続けてきたベテラン右腕の小山伸一郎は言う。
「すごく勉強してますよね。元々、スター選手で入ってきた訳じゃないし、努力して今の地位を勝ち取ったわけだから。ちょっとしたことで感情的にもならなくなりましたしね」
野村監督の教えを下地として、そのリードが一段と凄みを増したのは今季からだ。134試合の出場は自身最多。初めて真の正捕手として1シーズンを過ごし、優勝の原動力となった。負傷もあって出場91試合と悔しいシーズンを送った昨季から、実は大きな変化もあった。本人は「ピッチャーに優しいリードになった」と表現する。
これまでは、投手主体の考え方をしていなかった。ピンチになればなるほど、相手の弱点を突くことばかりを考えて、味方投手に対する要求は厳しくなった。ピッチャーが弱気になっていても、お構いなし。球界最高の右腕・田中に要求することと同じことを、すべての投手に求めた。
「全員が田中だと思ってリードしていた。抑えるためには、(厳しい要求に対してもピッチャーが)やらなきゃダメだと思っていました。でも、厳しく要求すれば、ピッチャーを苦しめて余計に打たれる。だから、今年は得意としている部分を出せるようにしています」
今季は、投手の力を最大限に生かすために、たとえ相手に狙われている可能性があっても、自信を持っているボールを投げさせた。サインを出して、投手が弱気になっていると感じれば、要求を変えた。
「どうやってバッテリーとして頑張るかを、去年と比べたら考えるようになりました。投手陣で本当に経験があるのは、(斎藤)隆さんと小山(伸一郎)さんくらいですから」