マー君がメジャーで成功するための二つの鍵――“ストレート”と“制球”
直球をコントロールできるかが成功の鍵
そして、成功の鍵は、田中が直球をコントロールできるかにかかっていると同記者は見ている。日本ではパワーヒッターが少ないため、カウントを悪くした場合には、直球で大胆に勝負できていた。ただ、メジャーではそこでの1球が命取りになる可能性がある。松坂大輔は日本では制球が良かったが、メジャーでは積極的に振ってくる打者を恐れるあまり、制球を乱したと指摘されている。ダルビッシュでさえも、海を渡ってからは制球が悪くなっており、日本では1試合あたりの四球が2・4、最後の年(2011年)は1・4だったが、昨年は3・4まで上昇している。
もっとも、ダルビッシュは打者を歩かせても、“破壊的”な投球で打者を打ち取ることが出来る。しかし、田中はダルビッシュほどのボールを持っていないため、四球の後は岩隈のように(丁寧に)投げる必要があるという。昨季はホームランを6本しか浴びなかった田中だが、メジャーではこれが増えることは確実だからだ。
ショーエンフィールド記者のこれらの分析は、投球をYouTubeで見ただけとは思えないくらい的確と言えるだろう。
思えば、プロ入り当時、楽天の指揮官だった野村克也監督は、田中の課題は直球だとしきりに指摘していた。「マー君は本格派ではなく、変化球ピッチャーとして初めて新人王を獲った選手かもしれない」が口癖で、変化球に対する評価は高かった。一方で、直球については「課題はストレート。ストレートで空振りを取れない」と厳しかった。現在では、田中の直球を打てる日本の打者はほとんどいなくなった。今度はメジャーでプロ入り当時の課題が再び突きつけられることになるかもしれない。
ただ、それこそが田中の望んでいることなのだろう。強力な相手との対戦で自分のボールを磨き、レベルをさらに高めていく――。例えば、黒田は自分の直球が通用しないと受け入れ、打者の手元で変化するシンカーを多投することでメジャー屈指の投手となったが、田中はどのようにして自らの地位を確立していくのか。日本でも課題を1つ1つ克服し、もはや「無敵」と呼べるレベルにまで上りつめた右腕だからこそ、期待は高まる。米国でも唯一無二の存在になる日が来ることを、日本のファンは待ち望んでいる。
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フルカウント編集部●文 text by Full-Count