21日開幕の選抜高校野球 強豪・履正社に挑む小山台ナインと「とんぼ」の思い
名門校を襲った悲しい事故
どこかで幸せのとんぼが甲子園の舞台を見つめていることだろう。
第86回選抜高校野球が21日、阪神甲子園球場で開幕する。大会第1日目の第3試合に登場するのは、21世紀枠で出場する東京都立小山台高校。今回が初出場となる同校は、過去に元首相の菅直人氏や映画監督の山田洋次氏らを輩出するなど、文部両道として知られている。その進学校にとって今大会の出場は新しい歴史の1ページとなるに違いない。
そんな名門校を悲しい事故が襲ったのは2006年6月のことだった。当時、野球部員だった市川大輔さん(当時16歳)が都内のマンションでエレベーター事故に遭い、亡くなった。2年生でレギュラーだった市川さん。早すぎる死に誰もが悲しみに暮れた。
今の部員たちは同じ時間を過ごしていないため、今回の甲子園出場によってあの事件が呼び起こされてしまうことに、あまりいい思いをしない人もいるかもしれない。だが、福嶋正信監督は市川さんが呼び寄せてくれた甲子園切符だと思うところがあった。
事故があった年の秋、ある練習試合でのことだった。まだ教え子を失った傷の癒えない監督がベンチで肩を落としていると、膝に一匹の赤とんぼが止まった。
「大輔か?」
思わずそう呼びかけると、とんぼは監督の出した人さし指に止まったという。一度は飛び去ったが、名前を呼ぶと再び戻ってきた。偶然かもしれなかった。だが、監督はそのとき、グラウンドに市川さんが帰ってきたと信じ込んだ。