21日開幕の選抜高校野球 強豪・履正社に挑む小山台ナインと「とんぼ」の思い
とんぼは、前にしか進まない
以来、市川さんの思いを常に持ち続けてきた。福嶋監督はとんぼと白球をデザインしたポロシャツを作って、部員や市川さんの家族に手渡し、思いを共有した。チームは今もそれを着用している。
亡くなった市川さんが購入したバットを使った選手が、試合を決めたこともあった。事件を風化させないため、そして、選手に1日1日を大切に過ごしてほしいという思いから、市川さんの野球ノートもコピーをして配布してきた。
今まで手が届かなかった全国の舞台、甲子園という夢。公立校のため、そんな目標を口にしても、周囲は冗談として聞き入れてくれなかったかもしれない。だが生前、市川さんは「甲子園に行きたい」と口にしていたという。
そして、とんぼは何度もグラウンドにやってきては、選手を見守っていた。福嶋監督は、そんなとんぼを見る度に市川さんを思い、力に変えてきたという。市川さんと面識のない現在の部員も、その監督の気持ちをくんで戦った。結果、後輩たちはその先輩の夢を叶えたのだった。
相手は優勝候補にも挙げられている大阪の履正社高校。一回戦から、なかなかの強豪と対戦することになった。だが、選手たちに委縮した様子はない。
とんぼという生き物は「勝ち虫」と呼ばれ、縁起物とされている。とんぼは前にしか進まない。決して退却することなく、突き進む。強い精神力、攻撃的なものの象徴でもあるのだ。そのとんぼに見守られてきた小山台高校ナイン。21日は全ての力を結集させ、甲子園のグラウンドに飛び立つ。
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フルカウント編集部●文 text by Full-Count