忘れられない甲子園 最後の春を戦った台湾人留学生
彼の存在がチームをひとつにしてくれた
思い出すだけで、涙が止まらない。
野球部の監督、コーチ、選手たちは「蔡の人柄が良かったから、ここまでチームに溶け込むことができたと思う」と口を揃える。甲子園常連の強豪高校であり、ただでさえ練習は厳しいのに、言葉の壁、文化の壁も越えなくてはならない。
首脳陣も当初は特別扱いしないと、他の選手と同じように接してきたが、コーチたちは考え方を変え、途中でナインを集めて言った。
「お前らが蔡をサポートするんだぞ。いろんなことを教えてあげてくれ」
嫌な顔をする選手はいなかった。仲間意識は強くなった。「選抜に出てこられたのは、蔡のおかげ。彼の存在がチームを一つにしてくれた」とコーチたちは感謝していた。
女子マネージャーの鈴木和奏さんは3年生全員に勝利のお守りを作った。「本当なら夏の甲子園を目指そうと、夏に向けて作るのですが、今回は蔡くんが最後。いつもはメンバー入りした分だけですが、今回は3年生全員で蔡くんと一緒に戦おうという気持ちでした」と3か月早く作製し、手渡した。
お守りの効果が出て、初戦は優勝候補の横浜を撃破。直後に龍谷大平安に敗れたが、1日でも長く甲子園でという思いは届いたのかもしれない。
蔡くんはこれから裏方として夏の甲子園に向けてチームをバックアップする。「今度は僕が全力でみんなを応援して、夏に戻ってきます」。彼らの絆は甲子園での汗と涙が染みこみ、また一段と強いものになった。
【了】
フルカウント編集部●文 textbyFull-Count