選抜高校野球で準優勝の履正社・岡田龍生監督 「前後裁断」で夏にリベンジ
過去と未来を切り捨て“今”に集中する
練習量が多いと感じている部員がいれば、「自分で考えて、必要だったらやればいい」と指示する。音を上げる選手がいれば、「無理してやらんでもいい」と声をかけ、強制はしない。今、何が必要かを各々に考えさせる方針を貫いている。
「お腹いっぱいの状態で豪華な料理を出されても食べられない。空腹のときにお茶漬け一杯でもおいしく感じる。そんな違いかな」
岡田監督は笑いながらそう説明する。
学校のグラウンドで部員が見るホワイトボードに「前後裁断」と書き込んだ。過去と未来を切り捨て、今に集中するという意味の言葉である。ある試合で凡退した選手が相手の攻撃になって守備位置についたときのことだった。打ち取られた打席のことを気に過ぎていて、その場で修正するための打撃のフォームを作るなどバッティングをイメージしているそぶりを見せたのだ。
これに岡田監督は激怒した。「守備になんで集中しないんだ」と声を荒げた。プロ野球の現場でも、コーチが若手選手に同じことを指導していることもある。野球をやる上では大事なことなのだ。過去を切り捨てて、今その瞬間を大事にしなくてはいけない。選手たちの心にそう訴え続けた。
惜しくも準優勝になったものの、準決勝で見せた主将の金岡洋平の起死回生の9回同点ホームランや、2年生エースの溝田悠人と永谷暢章の好投手リレーなど、心に残るプレーが多かった履正社高校。それでも、岡田監督はすでにそれらの功績を自身の記憶から切り離している。前後裁断――。自分で何が大切かを考え、過去を捨て、今を生きる。早くも夏への戦いは始まっている。
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フルカウント編集部●文 text by Full-Count