メジャーに大衝撃を与えた電撃トレードの舞台裏 1989年以来となる世界一に向けアスレチックスが“超本気”
映画「マネーボール」でも有名なビーンGMは超本気モード
ここで疑問が1つ沸いてくる。
7月4日現在、アスレチックスの先発陣はア・リーグ15球団でトップの防御率(3・30)を誇っている。確かに、開幕早々にジャロッド・パーカーとAJグリフィンを肘の故障で失い、最近ではドリュー・ポメランツが右手骨折で故障者リスト(DL)入りした。それでも、ソニー・グレイ、スコット・カズミア、ジェシー・チャベスらが健闘し、メジャー屈指の先発ローテを誇るのに、なぜ即戦力がさらに2人も必要なのか。
今季は世界一が手に届く範囲にある、とビーンGMが感じているからだ。
「先発3本柱のグレイ、カズミア、チャベスは本当にやってくれているが、この3人に頼り過ぎている感がある。グレイはメジャーで1シーズン丸々投げるのは今季が初めて、カズミアはベテランだが長らくメジャーの舞台から遠ざかっていた。チャベスは救援から先発に転向したばかり。この先の戦いを見越した時に、3人の負担を減らす意味でも、即戦力となる先発が必要だった」
昨年、一昨年とア・リーグ西地区を連覇したアスレチックスだが、過去2年はプレーオフ出場が確実に見えても、ここまで大きな戦力補強には乗り出さず、むしろ手持ちの戦力でどこまで戦えるか試してみよう、というスタンスだった。それが、今季はすでにギア全開で思い切ったトレードを敢行。さらには「まだトレード期限(7月31日)まで3週間ある。まだまだ補強の手は緩めない」と強気発言まで飛び出すほどだ。
まさかの時の危機管理のため、念には念を入れた補強を得意とするビリー・ビーンが本気モードに切り替わった今、アスレチックスがどんな動きを見せるのか、非常に興味がそそられる。
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佐藤直子●文 text by Naoko Sato
群馬県出身。横浜国立大学教育学部卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーとなり渡米。以来、メジャーリーグを中心に取材活動を続ける。2006年から日刊スポーツ通信員。その他、趣味がこうじてプロレス関連の翻訳にも携わる。翻訳書に「リック・フレアー自伝 トゥー・ビー・ザ・マン」、「ストーンコールド・トゥルース」(ともにエンターブレイン)などがある。