知られざるイチローのスペイン語能力 日本の安打製造機がラテン系の選手から尊敬を集める理由を米高級紙が特集

イチローはラテン系の選手たちにとってカリスマであり、よき友人

 ただ、ベース上での非公式な会話となると別なようだ。イバネスは、イチローのスペイン語習得の努力が、他の選手たちに大きな財産をもたらしていると考えている。

「彼は偏見を持たれることにとても敏感なんだと思う。自分の立場やこれまでの業績を理解した上で、そういった機会を使って短い言葉で彼の別の側面を見せているんだ。カルロス・ペーニャはいつまでも、ほかのいろんなことよりも(イチローとのやりとりを)覚えているだろう。引退したときに、チームメートや対戦相手と交流した瞬間が財産になる。イチローがみんなに残そうとしているものはそれで、みんな彼が殿堂入りプレイヤーだと知っているから偉大な財産だよ」

 記事では、イバネスの言葉を証明する具体的なエピソードがさらに紹介されている。

「現在、タイガースでプレーするビクター・マルティネスは、インディアンスで捕手だった時に、イチローが『muy peligroso(超危険)』という単語をふざけて誰かに言うのを聞いた。別の機会にイチローが打席に立った際、マルティネスは同じ言葉をかけると、笑われたという。それからの打席で、イチローは打ちにくい球をファウルにすると、ためらわずに『Mala mia(悪いね)』とスペイン語で冗談を飛ばすようになった」

 現在のメジャー最強打者との心温まるエピソードもある。昨年まで2年連続MVPに輝いたタイガースのミゲル・カブレラとも、イチローはスペイン語でコミュニケーションを取っているという。

 2004年のヒューストンでオールスターゲームが開かれたとき、7人のベネズエラ選手が記念撮影の準備をしていると、そこにイチローが入るよう呼ばれた。結果的に写真には8人の選手が写ったが、これが当時マーリンズに所属していたミゲル・カブレラとイチローの最初の出会いだったという。そして、記事はこんな後日談で締めくくられている。

「月日が経ち、カブレラはタイガースの一員としてイチローのいるヤンキースと試合をした。カブレラはイチローが走路に現れた時に『Feo!』と叫んだ。『醜い』と言われたことを理解したイチローは、笑顔でスペイン語を返したが、その言葉は英語でも印刷するのに不適切なものだった」

 ラテン系の選手たちにとって、イチローはカリスマでありながら、よき友人でもある。だからこそ、尊敬を集める。この記事に登場した選手だけでなく、昨季までヤンキースに所属していたマリナーズのロビンソン・カノや、レッドソックスのデビッド・オルティスらとも親密な関係を築いている。

 イチローが出塁し、ベース上でラテン系の選手とコミュニケーションを取っているとき、どんなくだらない会話をしているのか。そんなことを想像して試合を見ていると、新たな楽しみが生まれてくる。

【了】

フルカウント編集部●文 text by Full-Count

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