【高校野球】横浜高校・渡辺監督が最後までこだわったものとは
名将が譲ろうとしなかったもの
「このまま弱い横浜高校に成り下がっては困る。必死になって1年間、選手たちはやってくれた。(準優勝は)そういうたまものだと思います」
時には体調不良でグラウンドに行くのがつらい日もあった。しかし、選手たちの顔を見たら、そうは言っていられない。若いコーチたちに帝王学を学ばせ、選手の指導を任せることもあった。しかし、譲らなかったものがある。それは、ノックだった。
「腰が痛くても、若いコーチがいても私はノックを打たないといけない。いくら教えても、ノックの技術は教えることができないから」
50年、積み重ねてきた技がそこにはあった。打球の強さ、弾み、コース、状況に応じた打球。いくつも細分化された実戦向けのノックを打ってきた。それが打てなくなることを恐れ、渡辺監督はひそかにプールでトレーニングをして、健康管理に努めていた。自分にしか打てないノックの打球にこだわりを持っていたからだった。
この夏の最後のシートノックも絶妙だった。思いのこもった1球1球にスタンドの観客も打球を目で追っていた。もうユニホームを着て、ベンチで指揮を執る渡辺監督の姿は見ることができない。しかし、総監督としてのノックがある限り、横浜高校の歴史と強さは消えることはない。
【了】
フルカウント編集部●文 text by Full-Count