代打の「職人」日ハム矢野、周囲も目を見張る「準備」と勝負強さの「原点」
勝負強さが備わった原点、最も「つまらない」フリー打撃の意味
転機は5年目の2007年にやってきた。5月31日のソフトバンク戦で史上初の代打の代打で、逆転満塁本塁打を放つ離れ業を演じ、勝利に貢献。このころから代打業で力を出せる勝負強さが見え始めてきた。
大きな影響を与えたのは当時打撃コーチを務めた伊勢孝夫氏だった。ベンチを温めた時間は、2人は隣り合わせに座り、配球を予想した。「この次、ピッチャーは何を投げる?」などと問われ、球種やコースなど状況によって何を投げるかを答えた。そうやって状況を読む力を鍛えていった。この蓄積が勝負強さの原点ともいえる。
矢野は自己犠牲の精神を持つようにもなった。試合前、ファンが見える時間帯のフリー打撃は「見ていて一番、僕のバッティング練習がつまらないと思いますよ」と自虐的に話したこともあった。全力では振らず、バットにボールを乗せるようにして、一、二塁間にしっかりと転がす練習を徹底していたからだ。隣の打撃ケージで長距離打者が次々とスタンドに放り込んでも、矢野は一心不乱に進塁打を打つ練習をし、自分の仕事を追及した。
先輩や後輩からも、その明るく、男気のあるキャラクターは慕われている。日本ハムに移籍した後もそれは変わっていない。
矢野は「先輩からも、後輩からも学べるところがある」と2013年には自主トレで阿部慎之助、坂本勇人、長野久義らが行うグアム自主トレーニングに志願参加。阿部からは右投手攻略の方法論を学び、坂本や長野からは同じ右打者として吸収できるものがあれば、学び取った。同年のシーズン、代打安打は19本を記録し、球団新記録を樹立。満塁では4割6分2厘の高打率を残し、リーグ優勝に大きく貢献した。