恩師が語る巨人杉内の素顔 大減俸に隠された、強すぎる責任感

杉内は陰ながらの努力をする選手

 三菱重工長崎に入社した杉内は、高校時代の疲労から肩、詳しくは肩甲骨の稼動域が狭まっており、ボールを全力で投げられる状態ではなかった。その原因を鍛えられた下半身と筋力不足の上半身によるアンバランスと考え、1年目のシーズンは軽いキャッチボール程度に抑え、ほとんど体力トレーニングに時間を費やさせた。

 ランニングとウエイトトレーニングという地道な練習でも、与えられたメニュー以外に進んで黙々とこなす姿は、「1年目の選手に負けられない」と他選手にも大いに好影響を与えていた。「練習をやめろ」と言わないと、いつまでも練習するような選手であったと記憶している。その一方、大会中は、バックネット裏から試合のデータを取るような雑務も黙々とこなしていた。プロ選手になって、陽があたる華やかな場所ばかりを歩いている印象があるが、陰ながらの努力をする選手だった。

 それは常に、育ててくれた家族への恩返しの念がそういった行動に現れていたことは説明する必要もない。1シーズンを体力トレーニングに費やした後、初めて投球練習を行ったが、高校時代に投げていた球速をはるかに上回るスピードをつけていた。社会人時代の最速は、150キロ程度であったと思う。真剣に力を入れて投げたら、おそらく今でもそれぐらいの球速は投げられると思う。

 このように、「急がば回れ」という指導方法もあると勉強させられたのも杉内との関わりからであったし、その後の自身の指導者人生の大きな財産となった。杉内の大きな特徴は、投球の腕の振りのスピード感以上にホームプレート付近では速いということ。速い球を投げる投手は、いかにも速い球が来るというような力感溢れるフォームとなっているが、杉内はゆったりとしたフォームで力むことなく、腕を振る。打者は遅いボールが来るような錯覚を受けるが、手元では予想以上の速さのボールが来るため、対応ができないという状況に陥る。

 何回も対戦していれば慣れてくるのでは、という疑問もあると思うが、打者はそう簡単に普通の投手とのギャップを埋められるものではない。この一番の要因は、鍛え抜かれた下半身にあり、特に内転筋の絞りによる上半身の捻転は他の投手よりも特徴的な部分である。今回の怪我もそういう部分が影響しているのかもしれない。

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