恩師が語る巨人杉内の素顔 大減俸に隠された、強すぎる責任感
「これだけチームを愛した選手はいない」、社会人野球での忘れられない出来事
若い頃は、少し腕の位置が今よりも高く、どちらかというと状態を縦回転させる、少し折れたような投げ方をして、球の角度と勢いで打者を打ち取っていたが、ホークス時代の2年目あたりから少し腕の位置を下げて、横回転の体の回転を意識したフォームに変化していったように感じている。それによって、若い頃の力の縦回転の体の使い方から来るコントロールのブレがなくなり、低めにボールが集まるようになった。自分らしい理想的なフォームを掴み取ったと言えるであろう。
ホークス時代に悔しさのあまりベンチをこぶしで殴って骨折したことがあった。気の強い部分が強いが、性格的にはむしろ寡黙な感じである。あまり積極的に会話をする方ではないが、人一倍勝負にはこだわる。自分のことよりチームに迷惑をかけたということに重きをおくタイプでもある。忘れられない出来事がある。
私が三菱重工長崎の監督を終えると決めていた都市対抗本大会の準々決勝・三菱ふそう戦。2点リードの状況で前半からロングリリーフした杉内は、8回に同点、逆転の2本の連続本塁打を浴び、降板することとなった。マウンドへ向かい本人に交代を告げたところ、「すみません」と号泣して崩れてしまい、抱きかかえたままベンチへ連れて帰ったことを今でも鮮明に覚えている。今の選手の中に、これだけチームを愛し、責任を持ってプレーしている選手がいるのかと思いながら、試合には負けてしまったが、指導者冥利に尽きる瞬間であった。
一昔前ではあるが、子供たちに『好きな左投手は?』と問うと、みんなが「杉内」と応えていた。淡々と投げる姿と体が小さくてもやれるという象徴として、人気を集めていたのではないだろうか。
かなり難しい手術を受けたようであるが、みんなが杉内のカムバックを願っているし、何よりも今でも野球が好きな少年の憧れのためにまだまだ頑張ってほしい。もう一度、野球を始めた時のようにガムシャラな杉内の復活に期待したい。
【了】
小島啓民●文 text by Hirotami Kojima