158キロドラ1右腕を襲った突然の悪夢 2度の戦力外も野球続ける理由とは
昔と同じ「指先の感覚」、元ドラ1の先輩投手からかけられた言葉
「思いっきり失敗を恐れずに。そういう中でやっています。指先の感覚だけは昔と一緒。でも、158キロを出した当時に戻るっていう感覚じゃなくて、僕の中では新しい感覚ですね。だから、まだまだですけど、多分もっといい方向に行けると思うんです。そういう自信が自分の中に生まれてきたのが一番。158キロを出した時がベストだったけど、今は(人として)絶対成長している。だから、そこよりもっと良くなれるって感覚が、自分の頭の中にはあるんです」
愛媛では、同じく甲子園→ドラフト1位という道を歩んだ正田樹(元日本ハム)とも出会えた。4ヵ国9チームを渡り歩いた大先輩。34歳の今でも、NPBを目指す若手と一緒に勝負の世界に身を置いている。
1度は野球を辞めようと考えた北方は、前々から正田に聞いてみたかったことがあった。「あの年で野球をずっと続けているのが、僕には不思議で……。『何でここまで続けるんですか?』って聞いたら『野球が好きだから』って。さらに『お前はまだ23だから、2回も3回も(NPBに)戻れるよ』って言ってもらえた。それでまた気合が入りました」。NPBから独立リーグを経て、再びNPBへ。経験した人にしか分からない言葉の重みが、そこにはあった。
四国アイランドリーグ総合優勝を決めた愛媛は、10月からBCリーグ優勝チームとグランドチャンピオンシリーズを戦い、独立リーグの頂点を争う。もちろん、目標は優勝。そして、フェニックスリーグに参加して「アピールしたいですね」。NPB球団から声が掛からなければ、トライアウトも受けるつもりだ。
それでも、自分の中ではNPBへの挑戦を繰り返すのは「あと2、3年」と決めている。
「野球をできる環境は素晴らしいけど、ここにずっといても厳しい生活になる。DeNAを戦力外になった時は、やり残したことがあるような気がしたけど、今の状態だったら、たとえ諦めることになっても、出し尽くせる気がする。もしダメだったら、その時は必要がないってこと。イップスも戦力外もいい経験だったと思います。その時は『最悪や』としか思えなかったですけど、今になったら、いい経験だったなって」
もう迷いはない。失敗も怖くない。キラキラした舞台で投げたいという子供の頃からの夢に向かって、北方は少しずつ、確実に、そして力強い歩みを続けている。
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フルカウント編集部●文 text by Full-Count