「負けた気がしない」の思い残した聖地へ 恩師、友人が語る岸孝之の素顔

今も語り草、「12ミリの丸刈り」

 その次の節で岸は東北工大を1安打完封。35季ぶりの優勝を決め、大学選手権に24年ぶりの出場を果たした。全国舞台では2本塁打を浴び、勝利目前で逆転負けを喫したが、自己最速を更新する151キロを投じた。日本代表のユニホームにも袖を通し、日米大学野球選手権大会と世界大学野球選手権大会を戦った。

 高校時代、全国的に無名だった岸は大学で実績を積み、ドラフトの目玉にまで成長した。05年に誕生した地元・楽天からも誘いはあったが、希望枠で西武に入団。高校野球最後の試合となった仙台二高戦で相手投手を見に来ていた西武のスカウトが「化けたら面白い」と高く評価し、球団に報告していた。西武のスカウトは岸が大学4年時に出場した国際大会も視察。アメリカやキューバでも黙々と練習する姿を確認した。メンバーはのちにプロに進む選手がズラリ。そんな中だからこそ、他とは違う岸の練習姿勢が目立った。プロでもしっかりやれる、まだまだ伸びる選手だと確信した。

 名取北高時代の監督・田野さんは「岸は運がいいのか、運を引き寄せているのか」と話す。プロ1年目のオープン戦では打ち込まれ、2軍降格の危機があったが、そこで抑えた。高校の同級生・佐藤さんも話す。

「力があってもプロに行けない人は山ほどいるし、プロに入れたとしても結果を出せない人もいます。岸くんはプロに入った時、オープン戦でかなり打たれたんですよ。電話で『みんなバケモノ。ストライクを投げれば打たれるし、ボール球は振らないし。どうすればいいのかわからない』って言っていましたね。それがここで結果を残さないと2軍降格というタイミングで踏ん張った。その後は、この人、すごいところまで行っちゃったなという活躍です(笑)」

 これも運を引き寄せたということなのか。丸刈りを強制されるチームではなかったことで名取北高野球部に入部した経緯がある岸。大学野球部時代、連帯責任で同級生全員が丸刈りになることになったのだが、岸は逃げ回ったという。それでも、最後は仲間の説得に応じて髪を刈った。田野さんは「仲間にも恵まれた」と話す。

「仲間が家まで行って渋々応じたと聞いています。12ミリの丸刈りにしたって。12ミリって丸刈りじゃないと思うんですけどね(笑)。でも、12ミリを許容してくれた仲間、先輩。そして、そんなわがままなやつを追いかけてくれた仲間。岸、恵まれているなと思いますね。この話を聞いた時、私はこれで辞めるんだろうなと思ったんです。でも、仲間と丸刈りにした。その後、大学2年で福祉大に勝って、評価も高くなった。頑張ってほしいなと思いましたね」

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