もう負けは許されない 選抜準Vの履正社、夏の甲子園出場に必要なものとは

突き詰めていく材料は山積、「どう夏へ向かっていくか」

 ただ、選抜大会で結果を残すと、春の大会での戦い方は難しい。「一度登った山を下り切って、(夏に向け)さらに高い山を目指す」とは選抜で結果を残した監督がよく言う言葉だが、まさにそうだ。選抜の結果は夏の戦いにはまったく優遇されない。だが、選手たちは選抜で戦い抜いた“余韻”をどこかに残したまま夏に向かわなければならない。「切り替える」「選抜のことはもう忘れる」と口では言っても、心や頭の片隅には残像があり、それが行く先を邪魔することもある。

 選抜の決勝で敗れたあと、履正社ではミーティングをする回数が増えたという。オフの時間も使って、全員で向き合い今後のことについて議論を重ねてきた。岡田龍生監督も「気が抜けたとか、練習に力が入っていないとか、そういう場面はない」とは明かしたが「それでも(外野の落球など)ミスが失点に繋がっていましたからね……。投手層の薄さも出てしまいましたが、ああいうところでミスが出るようでは」と表情を曇らせた。

 発展途上だった秋はそれでも勝ち進んで来られた。その要因は「たまたま失点に繋がらなかっただけ。でもこの春はほとんど失点に絡んでいるんです」と松平一彦部長は話す。秋には何とかなったことでも春は通用しない。自分たちが選抜を見据えて過ごしてきた冬の間に、周囲は夏だけを見つめて追い込んでレベルアップし、勢いを増す。昨年のチームは冬に蓄えたパワーをいかんなく発揮し、春の大阪、近畿、そして夏の大阪までも制した。だが、今は日本一どころか夏の甲子園を目指すためにもっと突き詰めていく材料が山積している。

 この春の大会はエースの竹田祐がマウンドに立つことはなく、投手層の底上げもテーマだった。投手陣の踏ん張りも夏の戦いのカギとなるが、それ以上に履正社に必要なものは全員が相手にぶつかっていく気迫や気持ちなのかも知れない。パワーや技量だけでなく、1本勝負の夏に戦うためにどんな姿勢で立ち向かえるのか。今夏は例年以上にヒートアップした戦いになるため、気持ちの強さ、ブレなさ、そして“組織力の高さ”が勝敗や流れを左右することもある。

「ここで頭を打って、どう夏へ向かっていくかだと思います。ミーティングを増やしても、春に結果に繋がらなかったということはまだまだなんだと思います」と若林将平主将。志半ばとなった春の戦いを終え、残す公式戦は夏のみ。もう、負けは許されない。

【了】

沢井史●文 text by Fumi Sawai

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