107号清宮に1号を打たれた男の今― 消防士目指す19歳「いつかまた対戦を」
ホームラン伝説の幕開け…関東第一のエース・田辺廉、甲子園4強も野球は引退
清宮がまた打ったって。
その知らせは、模擬テスト終わりの専門学校、昼休みに知った。ツイッターを見ていたら、友達の投稿で気づいた。高校野球史上最多に並ぶ107号。神宮の夏空に「WASEDA」の背番号3が鮮やかなアーチを描いていた。
「おっつけただけのバッティングで逆方向に打って、スタンドに入れちゃう。それで107号。だけど、そんなことも1年生の頃からできていたんですから。凄いですよね、やっぱり」
田辺廉は、そう言って笑った。
名前だけ聞いても、ピンとは来ないかもしれない。この19歳の青年が、早実・清宮幸太郎に高校1号を打たれた男である。
東京の強豪・関東第一のエースだった。忘れもしない。15年4月18日、春季東京都大会準々決勝・早実戦。5-3とリードし、5回1死二、三塁で迎えた第3打席。1ボールからの2球目、高めに浮いた140キロ直球を完璧に捉えられた。神宮第二球場のバックススクリーン右に飛び込む、推定130メートルの特大弾だ。
「バットに当たった瞬間、いかれたと思いましたね。だから、打球を振り返りもしなかった。夜のニュースを見たら、自分が打たれた姿が全部映っていて……。センターのオコエ(現楽天)は一歩も動いてなかった。そのくらい完璧にやられたんです」
18.44メートル先にいた怪物は、やけに大きく見えた。当時の背番号は「19」。入学から10日ばかりの1年生だったが、噂はすでに耳に入っていた。「凄いヤツが早実に入った」と――。リトルリーグで世界一に輝き、「和製ベーブ・ルース」と呼ばれていた。
そして、2年先輩の田辺は高校生活で初めてホームランを打たれた。
「ただデカいだけじゃなくて、オーラがあるんですよね。それでいてスイングも速い。これは高1じゃないな、と。最初の2打席を抑えることができて余裕が出たのか、甘い球を投げてしまった。アイツからしても1号、僕からしても1号だったんです」
お互いの「1号」から、清宮の「ホームラン伝説」は幕を開けたのである。