膝の負傷との戦い、戦力外、異例の営業転身 ドラフト5球団競合左腕の今
プロ野球選手として直面した「分岐点」、営業マンとして感じる“熱”
「僕は怪我持ちだった。だから、膝のバランスを崩している時にどれだけのピッチング、パフォーマンスができるかが大事だったんです。いい時はすごく良かったんです。ただ、悪い時がすごく悪かった。怪我をしてから、この幅をどう埋めようかと何年間かやってきた中で、プロでやっていくためには、この下の部分をなんとか縮めないといけないのですが、どうしても体の調子が悪い時にそこをクリアできなかった。これをずっとやってきて、去年も駄目だったんですよ。9年間ずっとそれをやってきたので、僕としては『やれることはやりました』という気持ちでした。いい日はいいけど、悪い日は悪かったら話にならない。その1試合、1敗がチームとしてはダメージになってしまうので」
ルーキーイヤーのキャンプ、オープン戦では、プロを相手に圧巻の投球を見せていた。あの怪我がなかったら……とは思わないものなのか。長谷部さんは「それは思わないですね」と言い切る。
「みんなそうですけど、怪我をしてどうなっていくかというのが分岐点だと思います。その怪我を含めて選手としての価値なので。怪我をして戻ってこられない選手は今までたくさんいただろうし、僕もその一人だっただけなので。怪我がなかったらとか、そういうのはないので。調子がいい時は全然いいんですよ。全然できるんです。ただ、プロ野球は1年間あって、総合力を問われるんです。この時はいいけど、この時は駄目というのは良しとはされない。僕ができることはやってきたつもりだし、それに対して戦力として認められないということだったので、それなら僕は身を引きますという感じでした」
厳しい世界で生き抜き、やりきったという思いが強いからこそ、新たな仕事に前向きに取り組むことができる。
グラウンドを離れて感じるのは、楽天人気の高まり、そして、プロ野球選手として戦えていたことの喜びだ。特に、今季は楽天がシーズン序盤から好調を維持しているため、営業マンとして“熱”を感じるという。
「お客さんから連絡がきて『(今年の楽天は)本当にすごいね』と言われます。1月から3月まで年間シートを販売していて、僕は新規のお客さまの営業だったんですけど、今までは『楽天の試合はそんなに見てない』という方が多かったんですけど、そういう方にチケットを買っていただいて、すごく試合を見に来てくれる。電話がかかってきて『今日勝ったね』と言われることもありまし、すごく興味を持ってくれる人がたくさんいるので、うれしいですね。ただ、昨年、一昨年とチームが低迷しているときも観客動員は伸びているので、勝っても負けてもスタジアムとしてはすごく気に入っていただけるのかなと数字を見て思ったりしてます。
今年になって、スタジアムの周りを歩いたり、中にいたりするんですけど、お客さんがすごく選手たちのことを見ているし、応援もすごくしてくれるし、たくさんの人が来てくれてるというのは感じますね。選手の時は、自分たちが見られてるとか、お客さんがどう思ってるとかは声援でしか感じられなかったんですけど、その中に入ってみて、そういう人たちがすごくいるんだと実感します。そちら側に入ってみて初めて分かったこともたくさんあります」
楽天野球団のため、そして営業マンとして、今後へ向けてのビジョンや目標はあるのか。幼少期から努力を積み重ね、鳴り物入りでプロの世界に飛び込んだ左腕は、選手時代と同じように自分自身を磨いていくつもりだという。
「本当に新しいことを始めたので、野球で色々と積み重ねてきたように、まずは『営業とはこういうものなんだと学びながら自分がレベルアップできればいいな』くらいにしかまだ思っていません。『プロ野球選手』みたいな目標は、今のところ特にないですね。僕の小さい頃の夢も、『プロ野球選手になりたい』と目標に向かってやってきたわけじゃなくて、1つ1つ目標を決めて、それをクリアしていって、最後はプロ野球選手になった、という性格なので、それと一緒です。本当に積み重ねというか、それでそこまで行けたというやり方です。なので、大きい目標というよりも1つ1つ、という感じです」
スーツを着こなし、新たな仕事を生き生きとこなす。楽天野球団のさらなる発展に向けて、選手ではなく営業マンとなった長谷部さんの力は欠かせない。
(Full-Count編集部)