「タイトルを獲れ」―井口資仁の人生を大きく変えた、ちょっとしたキッカケ
井口が決めた明確な目標「盗塁王」
99年には14盗塁をマークしている。そして目標のためには40盗塁ぐらいが現実的な数字となる。これまでは積極的に狙っていたわけではない中でマークした数字。しかも打撃と違い、走りには好不調の波が少ない。ゴールまでどのように進めばいいか。頭の中で計算をするうちに道筋がハッキリと見えた。だから、明確な目標として「盗塁王」に定めた。
「大きな目標も逆算して小さく分解すれば達成する可能性が見えてくる。1シーズンは6か月あると考えると1か月5盗塁で30盗塁。最低でも週に一つ成功させていけば、そこそこの数字になると考えると、気持ちが楽になった」
具体的な目標に向かっての挑戦の日々が始まった。自宅のカレンダーには盗塁をするたびにシールを貼って、より自覚を持って挑んだ。明確な目標に向かって突き進むことで気持ちに変化が起きた。それと同時に技術的な変化も感じることができた。大きな発見だった。
「盗塁を成功するために、より考えて野球をするようになった。配球、クセ。いろいろな状況を観察するようになった。すると、今まで見えなかったものが見えるようになった」
現実的な目標を設定し、それに向かって無我夢中で挑む行為が井口を変えた。何かを一つずつ成し遂げていく達成感も楽しかった。なにより角度を変えて野球を見ることで新たに見える景色があった。結果的に01年シーズン、140試合に出場。打率.261、30本塁打、97打点。44盗塁で盗塁王を獲得すると同時に打撃部門の他の数字も大きく伸ばした。目標を設定し、それに向かい突き進んだことで思わぬ副産物を生んだのだ。
「人生、ちょっと角度を変えてみることで変わることはあると思う」